プロフィール
2016年10月 やまがた福わたし/フードバンク山形中央活動スタート
チャレンジのきっかけ
昨今、「食品ロス」「フードロス」という言葉を聞く機会が多くなった。これは、本来食べることができるものを廃棄することを意味する言葉だが、賞味期限内でまだ十分に食べられる食品にも関わらず、販売できない、または廃棄される食品を集め、食料の確保が困難な人や団体に届ける活動を「フードバンク」と言う。フードバンクは、アメリカで始まり、近年日本でも取り組みが進められていて、現在、山形県内では2つの団体が活動をしている。そのうちのひとつが、「やまがた福わたし/フードバンク山形中央」だ。
フードバンクの活動を行うことになったのは、旅行でベトナムを訪れたときに遭遇したある出来事がきっかけだった。夜市で買い物をした際に、物乞いの子どもと出会った。まだ3~5歳くらいの姉妹が「お金が欲しい」と手を出す。その現実を目の当たりにし、生まれたところが違うだけでこんな不憫な暮らしをしなければならないのかと衝撃を受けた。
帰国後、地元山形に目を向けたところ、山形県のこどもの貧困率が全国平均を上回っていることを知った。また、日本では約634万トンもの多くの食品が廃棄されている現実、そして食品を捨てることなく活かすことでCO2の排出が削減され、環境にも良い効果をもたらすことがわかった。15年間勤めた職場を退職後にまずは身近なところから活動を始めようと2016年10月1日「やまがた福わたし/フードバンク山形中央」を立ち上げた。
チャレンジの道のり
「給料日まで数日あるがお米がなくなってしまった。」「食に関して何カ月も前から悩んでいる。」「学費や学用品にお金がかかり食を減らしている。」「病気やけがで収入がなく食品や日用品が買えない。」「親が病気がちで収入が少なく学校へ弁当を持っていけない。」「突然の出費で食品や日用品が買えない。」
やまがた福わたしでは、このように様々な事情で困窮する人へ食べ物や日用品などを無償で届ける「食のセーフティネット」として活動をスタートした。
まず行ったのは、知人への声かけ。身の回りで余っている食品はないか、あれば寄贈してほしいと呼びかけた。すると、少しずつ各家庭から米や缶詰などの食品が集まってきた。
こうした草の根活動が徐々に広がり、生活クラブやまがたや社会福祉協議会、県JA女性組織協議会などとの連携もあって、活動スタートから4年間で約27tもの食品が集まるまでになった。
やまがた福わたしでは2019年度、山形県内の105世帯、221人に支援を行った。活動を始めるまでは身近なところでこれほど困窮する家庭があることを知らずにいた。最近は安価で購入できる服も多いため、服装では貧困状況がわかりづらい。食費を削って、携帯電話代を捻出している人も多い。山形の県民性なのか、「私よりも困っている人は他にいるから」と遠慮する人も多い。現状を知るにつれ、そうした人といち早くつながり、食で支えていきたいという想いを強くしていった。
現在の活動内容
現在やまがた福わたしでは、山形市、天童市、寒河江市内のマックスバリュにフードドライブボックスを設置している。この他、山形県、天童市、東根市、尾花沢市、飯豊町の各社会福祉協議会にて平日9時から17時までフードドライブを受け付けている。フードドライブボックスとは、食品のおすそわけボックスで、「お福わけボックス」と名付け、買い物ついでに食品を入れてもらえるよう呼び掛けている。
集まった食品は月に2回~4回ボランティアが手分けして回収し、山形市内の拠点へ持ち込む。月100~150㎏ほど集まる食品を、種類ごとに分類。賞味期限の確認や、包装がやぶけたりしていないかをチェックする。
米は1人あたり1カ月5kg。高校生など育ち盛りの子どもがいる家庭には、さらに5kg上乗せする。小さい子どもがいる家庭にはお菓子を多めに入れる。電気、ガス、水道などライフラインが使えない人には、調理が必要なそうめんなどはNG。カロリーメイトや水を注ぐだけで食べられるアルファ米などを入れる。また、料理が苦手な人には食材に合わせたレシピを用意する。このように細やかな気配りを惜しまず、各家庭の状況に応じて分類し届けている。
支援の期間は原則最長3ヵ月。病気療養など特別な事情がある人はその限りではないが、自立を目標としているため、こうして期限を設けて支援を行っている。現在は社会福祉協議会、NPO法人、自立支援窓口と連携するなど窓口も増えてきていて、2020年度はコロナの影響で収入が減少した社会人やアルバイトで生計を立てていた学生からの依頼も増えている。
※フードドライブボックスへおすそわけをしていただきたい食品
・賞味期限が明記されているもの
・賞味期限が一カ月以上あるもの
・未開封のもの
・破損で中身が出ていないもの
・お米は常識の範囲内で古くないもの。
(野菜や冷蔵、冷凍食品はフードドライブではなく、やまがた福わたしまで直接連絡を)
マックスバリュ店内のフードドライブののぼりとお福わけBOX
今後の目標・メッセージ
日々、多くのボランティアと共に活動を続けているが、倉庫の家賃や光熱費、梱包用の段ボール代、回収や配達にかかるガソリン代など、必要経費を補う資金の確保が困難なのが現状。様々な助成制度に応募しているが、それも多くの手間と時間がかかる。
またボランティアの人手も不足している。回収や仕分け作業は力仕事のため、若者の力も必要だ。ぜひ多くの人に、サポーターとして支援・協力をお願いしたい。
かつては、醤油がなかったら隣の家から借りる、といった助け合いの交流があった。今は24時間コンビニエンスストアなどが営業しているため、足を運べば手に入ることから、そういった貸し借りも少なくなってきた。こうして、なかなか「助けて」と言いづらい世の中になっていったと言えるだろう。
ひとり親家庭など、誰にも頼らず、自分だけでなんとかしようとがんばっている人も多い。ひとりで背負い過ぎずに、ぜひ助けを求めて欲しいと呼びかけている。支援を依頼し、その分肩の荷が下りた分、「明日からまたがんばろう!」と前向きに考える心の余裕を手に入れて欲しいと願っている。
本業をこなしながら、プライベートの時間を使って支援活動を行っているが、その原動力は支援した人が元気になっていく姿だ。フードバンクがなくても、みんなが自立した生活ができる世の中になることが願いではあるが、現実的には難しい。当面の目標として、食のセーフティネット「やまがた福わたし」の存在をより多くの人に知ってもらいたい。
「かつては当たり前だった近所同士の助け合いのように、おすそ分けをし合える地域のかけはし、橋渡しとして、“困ったときはお互い様!”という明るいイメージをもってこれからも活動を続けていきます。家庭や職場に眠っている食品で“いのち”がつながる。フードロスをなくして、フードドライブでおすそわけ。ぜひ多くの方に参加して欲しいです。」