農家民宿 だいちゃん農園ゲストハウス
志藤 一枝さん
チャレンジ分野:

プロフィール

千葉県出身
地方の男性と都会の女性を対象とした婚活イベントに参加したことがきっかけで結婚。
1987年に朝日町に移り住む。結婚してすぐに「カズエイングリッシュスクール」を開塾した。
その後、朝日町の小学校、保育園、放課後児童クラブ、河北町では小学校に勤務し、子どもたちを支援し続けてきた。
定年後の生き方を模索する中、2012年に町主催の「あさひまちブランド大学」に参加。
そこでの学びを機に「農家民宿 だいちゃん農園ゲストハウス」を2017年にオープンさせ、インバウンド観光を地域の活性化に結び付けた活動を行っている。
チェリア塾2期生。

チャレンジのきっかけ

 英語が好きで、独身時代は頻繁に海外旅行をしていた。結婚して1か月も待たずに、夫の友人から「うちの子どもに英語を教えてほしい」という依頼があった。その話を受け、町内の子どもたちを対象にした英会話塾を開くと評判は口コミで広がり、英語講師として町外からも声がかかるようになる。

 忙しく活動する中で、長男が高校2年生の時に不登校になる。家族の協力を得ながら親子の絆を築いてきたが、「余裕を持って息子と関わりたい」という思いから塾を閉める決断をする。父親の農園を手伝いながら少しずつ心の健康を取り戻してきた長男は、母の気持ちを察して、「英語を教えながら子どもと笑顔で接しているのがお母さんの本来の姿。僕が不登校になったのはお母さんのせいじゃないから」と繰り返し伝えてくれた。そうした長男の後押しもあり、それからしばらくして保育園や放課後児童クラブで働き始める。

 チャレンジの動機となったのは、2011年に開講した「あさひまちブランド大学」に参加したこと。この講座は、ブランド化推進プロデューサーとして村尾隆介さんを招き、行政と町民が一緒になって10年先の未来を見据え、朝日町を丸ごとブランド化していこうというもの。長男の名前を用いた「だいちゃん農園」としてブランド大学に参加し、開講式の代表挨拶では「単なるブランドではなく、心を大切に、将来、息子が継ぐかもしれないりんご農園のブラッシュアップを目指していきたい」と目標を語った。こうして、3年間に渡るブランディングの実践が始まる。

チャレンジの道のり

 長男の不登校のこと、息子に元気になってほしいという母としての思いを村尾さんに伝えるところから、「だいちゃん農園」のブランディングがスタート。子どものことだけでなく、自身のこれからの生き方を考える時間を得たことも大きな収穫だった。農業を続ける中で元気を取り戻していく長男の様子を見て、村尾さんが付けたキャッチフレーズは「くだものとこころをつくるだいちゃん農園」。「果物をつくることは未来をもつくる」をコンセプトに具体的な戦略を立てていった。

 そして、村尾さんから提案されたのはCouchsurfing(カウチサーフィン)とAirbnb(エアービーアンドビー)スタイルの民泊。それまでも国際交流の一環として山形大学の留学生を受け入れてきた経験を生かし、行政からの助成も受けながら、2017年春に「農家民宿 だいちゃん農園ゲストハウス」をオープンさせた。

現在の活動内容

 「家族の温かいおもてなし」「農業体験」「スローフードクッキング」。この3つをキーワードに、ゲストのニーズに沿うよう手助けしていくのが「農家民宿 だいちゃん農園ゲストハウス」のスタイル。ほとんどの人たちは志藤家の人との会話や、山菜やさくらんぼ、りんご狩りなどの収穫体験を目的に来園してくれる。コロナ禍前は、台湾を筆頭にアメリカ、オーストラリア、イタリア、イギリス、アフリカ、シンガポール、マレーシア、タイ、中国と世界各地から訪れていた。海外の人たちにとって、日本の暮らしを体感できることは興味深く、大きな楽しみに。実家に帰ってきたような懐かしさと癒しを求めにやってくる日本人も少なくない。

 食事はお蔵での「フォーマル膳」と、志藤家と一緒に食卓を囲む「カジュアル膳」から選べる。もちろん、素泊まりでも構わない。バーベキューやピザクッキングなど、一緒に作って楽しむメニューも人気だ。外食を希望する人には町内の飲食店を紹介し、交通手段が必要であれば連携している地元のタクシー会社に依頼する。茶道や着付けを体験したい人には、町の「達人」たちが先生役として協力してくれる。町の魅力を伝えるために、町民とのつながりを大切にしながら運営していくのが「だいちゃん農園」の特徴であり強みだ。旬の食べ物と心のおもてなし。日本の中の山形、そして朝日町で生きる「農家人」の逞しさや心の温かさ、素晴らしさを肌で感じてもらいたいと願っている。

 

 

今後の目標・メッセージ

 目標は2つ。1つ目は、町の魅力や人の素晴らしさを発信しながら、海外と山形県そして朝日町とをつなぐこと。行った先での人とのふれあいこそ旅の思い出。景色や食べ物は時が経てば忘れてしまっても、その時に出会った人とはメールや手紙、SNSでつながっていくことができる。山形人の素晴らしさをいちばんの観光資源として、海外と結んでいくことが役目だと思っている。そして2つ目の夢は、農業を通して子どもたちが心の健康を取り戻せるようにサポートしていくこと。

  縁あって移住した朝日町と、いつも協力してくれている家族へ恩返しをするために、これからもがんばっていきたい。

(令和3年7月取材)