NPO法人
ぼらんたす

プロフィール

2008年 NPO法人ぼらんたす活動開始

2013年 平成25年度山形県地域自殺対策緊急強化事業に採択され「山形県庄内発!こころを元気にするプロジェ
    クト2013」を始動。

2015年 楽家(らくや)オープン

「自殺予防の活動」としてこころ元気相談会、こころ元気サロン、「子どもの居場所」として、らくやこども食堂、食料配布のサービスフードパントリー、すこやかな子育てについての研修会、子育て家族向けの相談会を行っている。

チャレンジのきっかけ

 NPO法人ぼらんたす(理事長 岩浪 武司氏)は、「ボランティア」をキーワードに、人づくり・まちづくり・地域づくりをすすめ、地域のボランティア活動を支援している。ぼらんたすが考える「ボランティア」は、「いつでも どこでも だれにでもできること」が基本。「好きなこと」「得意なこと」を活かして、地域で気になることや放っておけなくて心や身体が動いてしまうことに、仲間と協力しながら取り組んでいる。

 現在、最も力を入れているのが「自殺予防の活動」で、こころを元気にすることに主眼を置いている。2022年で約10年になる。自死の多くは「追い詰められた末の死」と言われている。要因は、家族や健康、経済的な問題が複雑に絡み合い、死を選ばざるを得ない状況に追い込まれて亡くなっている場合が多い。
 しかし、地域社会において自死は、タブーとされ、残された遺族に対しても「なぜ気づかなかったのか」など、誹謗中傷や偏見が根強く残り続ける。追い詰められ、生きるのが困難な状況というのは、もしかしたらこの先の私にも起こりうることかもしれない。私たちにできることは何かを深く掘り下げて考えた時に、見えてきたのが追い詰められていく人の気持ち、心を理解することだった。地域の中によき理解者を増やすことが、自殺を予防する活動につながるのではと考え、平成25年度山形県地域自殺対策緊急強化事業に応募し、採択され「山形県庄内発!こころを元気にするプロジェクト2013」が始まった。地域の中には、人の話を聞くことや相談を受けることが多いという方がいる。その方達向けの講座がほとんどなく、最初に始めたのが、地域住民向けの傾聴講座等の研修会を開催することで、研修は毎年継続して行っている。

研修風景
研修風景

チャレンジの道のり

 研修会を重ねているうちに、講師をお呼びする機会も増えた。あきた自殺対策センター NPO法人蜘蛛の糸(秋田県秋田市)の佐藤久男理事長を講師に招き、開催した研修会もそうした取り組みの一つだ。自殺対策基本法に基づき自殺対策の指針として定めた『自殺総合対策大綱』に基づいて行っている自殺予防の活動のことや傾聴の話をしていただいた。その時、秋田では20年前から個別の相談を受けていると聞いた。研修の後に「あんたがたもやってみなさい。」と言われた。
 私たちのメンバーの中には、大切な人を自死で亡くした遺族がいる。相談に行けども多くは聞いてくれず、たらい回しにされた経験を持つ。本当にぎりぎりの中で頼りたいのに頼れず、家族もろとも倒れてしまうこともある。
 5年目になる頃には、これからの自殺予防の活動で私たちにできることを考え始めた。活動の初めの頃は、私たちが相談を受けるようになると考えたこともなかった。相談会へ向けて、追い詰められた人の話を、じっくり聞くことができる相談員を養成することからスタートした。15回連続の研修会を企画し、他の民間団体で相談を受けている方や職業的に人の話を聞く方に声をかけた。15回の連続講座は「傾聴」「精神疾患」「従来型うつと新型・現代型うつ」「自死遺族支援」「依存症」「いじめ問題」「障がい者支援」「精神障害と引きこもり」「DV、性暴力被害当事者支援」「生活保護制度」「多重債務、経営」等を学ぶ。研修会では、講義を受け、ロールプレイをし、秋田で開催された相談会に実際に参加させてもらう実地研修も行った。声をかけた方たちは研修後、相談員として一緒に活動を始めた。

 2019年3月、試験的に3日間限定の相談会を開催した。すべての申し込み枠が埋まった。やはり必要とされているのだと実感し、2020年から総合相談会を開始した。相談時間は概ね1時間、相談回数に制限は無い。何回相談に来てもいいことにした。相談にはお一人で来られる方、二人で来られる方もいる。受け手は一人が主に聞き、一人が記録をとる2名体制をとっている。悩みはみなさんそれぞれで、その中でも共通するのが人間関係だ。コロナ禍の相談会2年目は、中止になることもあったが、3年目(2021年度)は、状況を見ながらなるべく中止にしないように開催してきた。
 相談会では、心の中にため込んできた思いを聞くことに注力し、安心して話せる環境づくりに努めている。参加したある男性は、「自分のことを人に話すということを今までしたことが無かった」「自分のことは自分で決め、やり通すものだと思っていた」と話してくださった。帰る頃、「ここは、自分のことを話してもいい場所」、「誰かに話が漏れることのない、安心できる場所」とも。次にその方が来られた時、「前回、自分のことを他の人に聞いてもらう経験を初めてしてみて、どこか弱くなっている自分を感じた」とも話してくださった。
 男性は、小さな頃から「男の子は弱音を吐かない」「やり始めたことは最後まで」と言われる中で育ち、「男らしさ」というものの中に閉じ込められていることを改めて感じた。話を聞きながら、もっと自由に考えてもいいと思った。しかし現実は、なかなか変わらない社会通念があり、さらに追い込まれていくのもまた事実だ。

現在の活動内容

 相談に来る人は、「なんとかしたい」「生きたい」という強い思いを持っている。様々な相談窓口があるが、時間制限等により丁寧に聞いてもらえないことも多い。私たちは、どういうことで悩んでいるか、何を相談したいのかを、相談者に寄り添い、相談内容を整理して、なかなか話すことができない方、自分の家の恥をさらせないという方の話を丁寧にお聞きする。相談員は、現在14人いる。それぞれ多様な経歴を持つ人が集まっている。一般の人が一般の人の話を聞くという体制だが、弁護士や小児科医、高校の養護教諭をされた方、精神科の元看護師、産業カウンセラーの資格を持つ人、民生委員、民間団体で長年相談を受けてきた方等がいる。相談業務の経験、資源、人材を活かした、ワンストップのよろず相談になってきている。必要であれば専門の方に繋ぐこともある。
 相談をするほどではないが、集まって話ができる、他の方の話を聞く「こころ元気サロン」を継続して開催している。「楽家」で、毎月3回、夜(19時~21時)1回、お昼(13時~15時)2回開催している。こころ元気サロンには、一旦相談は終了したが誰かとつながっていたい人、相談会には参加しないけどサロンに参加したい人たちが集う。

アットホームなサロン
アットホームなサロン

 
楽家(らくや)外観
楽家(らくや)外観
 

  2015年から始めた活動に「らくやこども食堂」がある。子ども食堂は、子どもの貧困対策で生まれたものだが、らくやこども食堂には、誰かと一緒にご飯を食べたいという人も参加している。私たちは、「らくやこども食堂」を人と人をつなぐ人間関係を作る場と考えている。子どもの家庭環境等に問題があったり、家庭の中で抑えられたりするのであれば、地域で関わることができないかと。毎月2回、楽家で開催している子ども食堂は、第一土曜日がお昼ご飯、第三火曜日は夜ご飯を提供している。子どもから高齢者まで誰でも予約して参加できる。参加者は、親と子ども、祖父母など、毎回24、5人ほど。コロナ前は、一人暮らしの高齢者の方も子ども食堂に参加していた。いつも一人で食べるご飯は、おいしく感じられないという方も、小さい子を見て「めんこいの」と言いながら食事を楽しんでいる。
 実は、こうした子ども食堂の活動等、地域の中で取り組まれているすべての活動が自殺予防の活動につながっていると私たちは考えている。

らくやこども食堂
らくやこども食堂

今後の目標・メッセージ

 コロナ禍の中、コロナが明けた後は、地域の中で生きづらさを抱える人がさらに増えるのではないかともいわれている。今後も相談員養成研修に取り組み、新規の相談員を増やしていきたいと思っている。

 昨年の12月から3回の連続講座で「オンラインのあたたかい場づくり」という研修会を開催した。2月からはオンライン版の「こころ元気サロン」を開催している。自殺予防の取り組みについて紹介しているWEBサイト「やまがた♡こころげんきサイト」では、県内4カ所の保健所が主催する研修会等の情報を掲載している。今後は、県内の民間団体が取り組んでいる自殺予防の活動なども紹介したい。自殺予防の活動が山形県全体に広がっていくことを願っている。
 そのためには、地域の中で活動する私たち民間の活動を知っていただくこと、また地域の中での様々な活動のすべてが自殺予防の活動につながることを伝えていきたい。

お話をお聞きした、ぼらんたす事務局長 栗原穂子さん

(令和4年1月取材)