プロフィール
佐栄子さんは高校卒業後、地元にある企業に就職。22歳で専業農家の長男と結婚し会社勤務も続けていたが、38歳の時に義母の入院をきっかけに退職し家業を手伝うことにした。
農業に関わる中で規格外品を使った6次産業に関心を持ち、47歳の時に山形県立農林大学校の特別研修生として1年間加工技術を学んだ後、48歳で念願の加工所を建設。
その10年後、平成29年にレストラン併設型直売所「農haco(ノハコ)」を長女のかほ理さんとともにオープンさせる。
家族で農業の6次産業化による地域活性化に取り組んでいることが評価され、令和2年には夫とともに山形県ベストアグリ賞を受賞。
東根市男女共同参画推進委員。
チャレンジのきっかけ
サクランボ、桃、りんごといった果樹と米を育てる中で、課題として捉えていたのは米の消費拡大と規格外の果物の活用だった。手間をかけて育て味も良いのに、形が無骨なだけで二束三文の値段で取引されるのが悔しかった。その解決策として考えたのが加工品の商品化。加工技術を学ぶために山形県立農林大学校の特別研修生となり、1年間、座学と実習を繰り返しながら技術を習得した。翌年に県の改良資金を活用して、自宅の敷地内に加工所を建設した。その後、アップルパイ、フルーツケーキ、米粉のシフォンケーキ、ジャムなどを毎日作り続け、10年間近くの産直で販売した。
加工品を続ける一方で、近隣住民の高齢化が進む実態をなんとかしたい、町の皆が元気になれる場所をつくりたいと一念発起。東根市役所の担当課にアドバイスを受けながら、実現に向けて動き出した。
チャレンジの道のり
チャレンジするうえで何より心強かったのが長女の存在。東京都内の企業でシステムエンジニアとしてキャリアを積んでいたが、このままこの会社で仕事を続けるべきか悩んでいた時期だったこともあり、将来「山形で暮らす」ことを選択肢として考えるようになった長女に、一緒に店をすることを提案した。長女は高校から県外に住み、家から送られてくる山形の食べ物に助けられてきたという思いがある反面、「山形の食べ物って何がおいしいの?」と友人に尋ねられるたびに、知名度の低さに悔しい思いをしていた。山形に戻って恩返しをしたい、高齢化が進む地元を元気にしたいという気持ちは母と一緒だった。
店を開業するのにあたり、始めは自家農作物や近所の農家さんの農作物を販売した。そして10年間作ってきた加工品の販売を考えていたが、店を運営していく中でお客さんからの声もあり、店内で販売する新鮮野菜を使った食事を提供することにした。
「農haco」の店名は、農家さんによって作られた農作物がたくさん詰まった「箱(haco)」でありつつ、
“農”を通して集まった人たちがワイワイと語り合える場所であってほしいとの思いを込め、「hold a conversation」の頭文字を取って長女が名付けた。とはいえ、店舗経営は未経験の2人は、手探り状態の中で夢を形にしていった。
現在の活動内容
ランチの調理、焼菓子、パンやジャム作りは母、接客や店のレイアウト、SNSを活用した広報、マネージメント全般を長女が担当した。それぞれの得意な分野で業務を分担し、ラベルやショップカードは長女がデザインしている。
直売のコーナーに並ぶ、朝採り野菜、手作りの焼菓子やパンは午前中で売り切れることもある。飲食のコーナーでは採れたての野菜を使った日替わりランチを目当てに訪れる人が多く、地元の旬の野菜や果物をたくさん食べてほしいという願いを込めて手作りするおかずはいつも好評だ。
メニューの開発については、「こういう料理がいいと思う」と長女からの提案も多く、そうしたアイデアがあるからこそ、地域の人はもとより若い世代のお客さんが足を運んでくれる。お客さんに食べて喜んでもらうことが嬉しく、やりがいにつながる日々となっている。平成29年のオープンから4年、客層のニーズをリサーチしながら経営していく余裕も生まれてきた。
ランチメニューの「さえちゃん御膳」は毎日メニューが変わる(850円・税込)
「山形うまいものファインフードコンテストこめっこ賞」に輝いた米粉のロールケーキ(160円・税込)

今後の目標・メッセージ
母娘の共通の思いは「地域に還元できる取り組みをしていきたい」ということ。
「お客さんにレシピを聞かれれば教えることも。それは、一人でも多くの人に食に興味を持ってほしいから」(佐栄子)。
「コロナ禍前に行っていた、地域の人や子ども向けのワークショップもコロナ禍の状況が落ち着いたら再始動したい」(かほ理)
「食の拠点」を目指し、お互いをリスペクトし合いながら頑張っている。