鈴木 悠香さん
チャレンジ分野:

プロフィール

平成16年~平成23年7月  山形舞子として活躍
平成23年9月       かんざし製作を開始

チャレンジのきっかけ

「高校生の時、山形市内のお土産物店でアルバイトをした際に、観光客と話をするのがとても楽しかったんです。その経験から将来は人と接する職業に就きたいと思っていて、接客業であり山形の観光PRもできる山形舞子という仕事を志望しました。舞や三味線のお稽古も仕事としてできますし、そして何より素敵な着物が着られるということが決め手になりました」
高校卒業後、山形舞子として山形市内の料亭や県外での観光イベントを中心に活躍。
山形舞子は25歳での引退が慣例となっているが、その引退まであと数ヶ月という時に東日本大震災が発生。震災の影響でお座敷のキャンセルが1ケ月ほど続いた。仕事がなくてずっと自宅待機中だった時、舞子として出来ることはないかと考えた末、舞子の髪に飾る『まげさし』を同僚のために作った。

子どもの頃から外で遊ぶよりも家の中で物を作っているほうが好きだった鈴木さん。中学で手芸部、高校では華道部に所属し、手先の器用さには自信があった。出来上がった『まげさし』を持っていくと、その素晴らしい出来栄えに「これだけの技術があれば、古くなったかんざしの修理を任せられる」と驚かれたという。

舞子を引退した時に先輩から、「かんざし作りを仕事にしてみたら」とのアドバイスを受けた。
「山形の舞子は、京都や東京と比べて小規模で資金力も乏しいので毎月新しいかんざしを揃えるのは難しいんです。いつも同じかんざしをつけていたり古びていたりすると、舞子の印象が悪くなってしまいます。私が自作して後輩たちに安価で提供できないかなと思ったのがきっかけでした」

チャレンジの道のり

まず古いかんざしを分解して構造や色のバランスを調べるところから始め、基礎を身に付けた。ピンセットと接着剤を使いながら2~4センチ四方の布で鮮やかな花を作り、その花をアルミ製の骨組みにつけて完成。すべて手作業のため1点作るのに時間がかかり、物によっては完成までに数日かかることもあるそうだ。
材料も手芸店ではなかなか手に入らないためインターネットで取り寄せている。

舞子が身に付けるかんざしを主に製作しているが、花を5個ほど集めた小さいかんざしが2つ、それと10個ほど使った大きなものが1つで舞子用のセットとなる。
「作り上げた商品は舞子たちが所属する会社に1セット1万5千円で販売しています。東京の浅草から仕入れた場合の半額くらいで、さらに高級品となると1セット5万円以上するものもあるようです」

手頃な価格と、仕上がりの美しさに後輩の舞子たちの評判も良い。
「『先輩が作ったかんざしです』とお客様との話題づくりにもなると喜ばれています」
「かんざしの販売は着物をお召しになる方が対象なので、その方々のお手元に届ける販路を質や価格を落とさずに今後どうやって広げていくかが課題ですね」
かんざし以外にも、ヘアピンやストラップ、ラインストーンを付けたアクセサリーなど気軽に身に付けられるものも製作し、山形県内のお土産物店や着物店を中心に販売している。

製作風景
春のかんざし

現在の活動内容

「裏方ながら、少しでもずっと山形舞子を支えていきたいんです。まずは山形の四季をテーマにした綺麗なかんざしを充実させて、季節ごとに選べるくらい取り揃えてあげたい」と鈴木さん。

製作した商品を販売する際には、山形舞子をPRするために「元山形舞子が作りました」「山形舞子も使っている」と表記してもらっているそうだ。新聞取材などの時には、舞子の写真も一緒に載せてもらっている。
「本来かんざしとは手が込んでいて高価な物なのですが、買い求めるお客様にはその価値を理解していただくのはなかなか難しいと思います。私が製作した商品では、アクセサリー感覚で浴衣に合わせたりと気軽に使ってもらえたら嬉しいですね」

依頼があれば、細かく希望をお聞きし特注のかんざしを作ることもある。
「以前テレビ番組で取り上げられたのがきっかけで、首都圏在住の方から『娘の成人式用に作って欲しい』という注文を頂きました。その方のためだけにオリジナルの一点物を作らせていただきました」

高級品だけではなく、身近な物も手がけている。「物販イベントに出店し、一般の方にもお買い求めやすい価格のヘアゴムを作って実演販売したこともあります。普段作業している風景はなかなかお見せすることができないので、とてもいい経験になりました。こうしたひとつひとつの経験がお仕事の幅を広げることにつながっていますね」

今後の目標・メッセージ

「山形舞子を引退した後に結婚しました。間もなく出産の予定なのですが子育てを頑張りたい。子育てとこの仕事を両立しながらずっと続けていきたいです」

私生活が落ち着いたらホームページを作って若い人向けにも幅広く情報を発信していきたいと考えている。
「気軽にインターネットで検索してもらいたいですね。県内でもまだ山形舞子を知らない人がいるので、もっと多くの人に知って欲しい。かんざしも色々な人に見てもらいたい。山形舞子とかんざしに興味を持ち、自分も身に付けてみたいと思っていただけたらと思います」

限られた予算と時間の中で、時間のかけ方や質を落とさない工夫を考えるのも大事なこと。
「置いてくださるお店の意向を聞きながら今までは委託販売という形でやってきています。私も商売っ気がないので、作った商品に値段をつけるのが難しいんです。これからは商売の基本についても勉強しなくてはと思っています」

「かんざしを自分の手で作ってみたいので体験教室を開いて欲しいという要望も聞こえてくるようになりました。今は難しいですが将来はぜひやってみたいと思います。一緒になって山形舞子を広められるようになればいいですね」

(平成24年12月取材)