旬彩工房 代表
山口 ひとみさん

プロフィール

■活動履歴
平成 9年  結婚を機に小国町へ。米の直接販売や発送業務を担当
平成12年  栽培した米を使った煎餅の製造委託を始める
平成22年  生活クラブでの雑穀(もちきび)とこだわり煎餅の取扱いを開始
平成22年  「旬彩工房」の食品加工施設を建設。ネットショップと菓子製造を開始

チャレンジのきっかけ

東京で働いていた頃、ストレスと食生活の乱れが原因で体調を崩したことをきっかけに、食や環境のことを学び始めた山口さん。
「いろいろと勉強していく中で、一般消費者に知らされていないことや、メーカー側や流通の都合に合わせて命がないがしろにされている現実に気づかされました。そのことにとても驚いて、嫌だな~と思ったんです」
食を『知ることで選べる』ことこそが大事だと実感したという。

小国町の専業農家に嫁いだ山口さんは、同じく食に興味のある友人に有機栽培の米を届けるなど、農業の一端を担う。
「私たちの生命を養っているのは、食べ物。『人を良くする』と書く食の字のように、身体も心も喜ぶ本当のおいしさを届ける農業がしたいと強く思うようになっていきました。子どもが生まれたこともきっかけの一つで、子育てをしていく中でより安全なおやつを食べさせたいと考えるようにもなりました」

同時に、生きるうえで不可欠な「食」を通して、少しでも社会が良くなればという思いも抱く。
「いろんな思いが土台になって、少しずついろんな方とつながりを持つことができました。選ぶことによって、自分や家族の健康を守りながら、きちんとした物を作ろうと頑張っている人を守ることもできる。そういう事を伝えられたらいいなと思っています」

チャレンジの道のり

「子どもに食べさせるおやつなど、加工食品のほとんどは”アミノ酸”や”砂糖”が含まれ合成添加物も多いので、それが無いものを探すのは本当に大変でした。小さな頃から食材本来の味が分かる舌を作ってあげたいと食事には気を遣っていました」」
山口さんの料理は、砂糖を使わず自然塩で食材そのものの旨みを引き出すことを大切にしている。

まずは子どもに食べさせたくて、煎餅の製造委託を開始。さらに生活クラブが縁で知り合った友人と身近な人に安心できるものを食べてもらおうと、クッキー等の焼き菓子を作ることを検討して、平成22年に農林水産業創意工夫プロジェクトという山形県の支援事業を受け、菓子製造業の許可を取得。加工場『旬彩工房』を立ち上げ、インターネット販売も始めた。
「自分だけでなく協力し合える仲間を見つけて一緒になって運営することによって、地域の活性化にも多少は貢献できていると思います」

自分が育てたものを加工し、直接販売する事は生産者、消費者どちらにもメリットのある魅力的な経営形態だという。
「生産者と消費者とがお互いパートナーとして支えあっていければいいなと思います。10年越しでご利用いただいている遠い親戚のようなお客様もいます。実際、購入してくださる人がいなければ、作り続けることができませんからね」
「良い食材で正直にていねいに手間をかけて作られているものは、どこのものでも美味しいと思います」

現在の活動内容

旬彩工房では、パンやクッキー・煎餅など安心して食べられるおやつを主力商品として製造販売しているほか主食として大事な穀類も、特別栽培米やその米粉、雑穀とよばれるもちきびや高きび・粒そばなども取り扱っている。
「町内では配達販売で役場や学校などに直接お届けしていますが、アスモにも置かせてもらっています。あとはインターネット販売や生活クラブ、最近では東京のフェアトレードを推進している第3世界ショップと連携して新商品の販売も行っています」
「東京などの遠方にはなかなか旬彩工房を直接PRすることができませんが、インターネット販売の利用者の口コミで少しずつ広がってきているので、交流の機会も作りたいと思っています」

焼き菓子、詰め合わせ
もちきびと特別栽培米

 

山形県の食育名人に認定されている山口さん。地域貢献の一環として、行政の支援や依頼を受けながらボランティアなどでの食育講座、保育園の年長児向け食育教室なども企画して開催している。
「食育教室では、保護者の方に『食の基本』をお話しした後、雑穀のきびを混ぜ塩をきかせて炊いたご飯で子どもたちと一緒におにぎりを作って食べる活動をしています。今後は具体的な食材の選び方や料理方法等もお知らせできればと思っています」

農業や食に広く関わりを持ちながら安心安全なものを提供するための知識を蓄え、その情報をたくさんの人へ発信していきたいという想いがある。
「生活クラブから得ることが多いです。常に本を読んだりセミナーなどで情報を集めたりして勉強しています。できるだけ興味のあるものには足を運ぶように心がけています」

食育講座の様子
町内の保育園で食育教室

今後の目標・メッセージ

「”本物の味 = ていねいに作られた自然の産物を生かした味”・・・このおいしさを確実に伝えていくことをこれからも基本理念としていきます。土の力、エネルギーにあふれた自然の恵みの味をきちんと伝えていくことが目標です」
「料理講座などで私たちの地元食材を使いながら、これまでとはちょっと違った工夫を取り入れた料理方法を伝えていき、身体が喜ぶ美味しさをもっと広げていきたいです」

「地域づくりとして、大人や子どもみんなが元気になれる交流拠点のような場所を作りたいと思っています」
「私たちのような普通の女性が地域を支えていくことが必要だと思っています。自分たちのやれることから気持ちの良い関係性を作り、お金ではなくて昔ながらの人や物が動いていくような仕組みを取り戻して、人間らしく豊かなゆとりのある生活モデルをみんなで創りだしていきたいです」
山口さんは、みんなが気持ちよく働けて、手仕事の豊かさやお互いに助け合う豊かさで成り立つ社会を築いていければと願っている。

(平成24年12月取材)