建築士
小山 惠子さん
チャレンジ分野:

プロフィール

■活動履歴
昭和43年  山形県立鶴岡工業高等学校建築科卒業
昭和46年  2級建築士取得
昭和53年  1級建築士取得[登録第122142号]
昭和57年  1級建築士事務所 童夢設立

■主な実績
(社)十坂協会・十坂保育園(酒田市)・松陵学区コミュニティーセンター(酒田市)

チャレンジのきっかけ

実家が工務店を営んでおり、親の仕事を見て子供心にも「おもしろそうな仕事だなあ」と興味を持っていた。しかし、大工道具に触れようとすると「仕事で使うとても大事な物だからさわってはいけない。」と叱られた。大人になったら、自分も親の後を継いで同じ仕事に就き、大工道具を使ってみたいと思ったのがきっかけである。

建築士会女性委員会のH21年度ふるさと探検隊
現場で作業中

チャレンジの道のり

最初は工務店の後継者になるつもりだった。それならば、工業高校の建築科に通うのが早道と鶴岡工業高等学校建築科に学んだ。卒業後、3年ほど自宅で製図や見積等の仕事を経験した。その後、建設会社や設計事務所で経験を積みながら、1級建築士の資格を取得した。今では女性の1級建築士の資格保持者は珍しくないが、小山さんが取得した当時は数少なかったそうだ。そして、57年に現事務所を立ち上げた。

現在は設計監理の仕事を主に活躍している。

現在の活動内容

一番多く手掛けているのが個人住宅である。個人住宅は、 施主との打ち合わせから始まり、出来上がるまでに時間がかかる。数年かかる事もある。割に合わないと思う事もあるが、それでも住宅はおもしろいと小山さんは語る。「最初から出来ているマンションを買った方は、<住む>ではなく<住まわせられる>という感覚です。しかし、何もない所から作る住宅は<自分がどういう生き方をしたいか・何をしたいか>が反映されるものなのです。」

設計をする上で注意している事は<平面>ではなく<ボリューム・容積>で考える事だそうだ。広すぎず狭すぎず、心地よい空間を作り出す事に力を注いでいる。

また、この仕事をしていて小山さんは男性と女性では住宅や建物に対しての視点が全く違っている事に驚かされたと言う。同業者は男性が多いが、その男性の目線とは違った考えを持つ事があった。その良い例が<トイレ>に関する考え方だそうだ。

女性のトイレの消音に対する考え方、 手を洗うより化粧直しに時間をかける場所であるという感覚が男性には理解してもらえないのだそうだ。逆に言えば、男性はトイレの使用目的をどう考えているのかが女性には理解できない。「男性だから・女性だからと性別で分けるのではなく、両方の考えを取り入れればよりいいものができるのではないでしょうか。」

また、遊びが仕事につながると小山さんは語る。たとえばステンドグラス。ステンドグラス1枚でもいろんな色がまばらに付いている。好きな色の部分をカットし、グラインダーでけずる。それから金色のテープを貼り、グリスを塗った後に、はんだごてで取り付ける。

加工したステンドグラスをトイレの窓にはめこんで、日光をあてて使えばより綺麗で、照明を入れればなお面白いのではという風に、どんどんアイディアがふくらんでいくそうである。

「こんな事もできるんですよ。」と、早速そばにあった和紙をしわしわにして模様を作って見せてくれた。「光を当てるとまた違ったかんじでおもしろいんですよ。他に網を編んだ物なども使います。」と語る小山さん。

<建築士会の女性委員会について>

○発足までの経緯

庄内の「きーぷらん」と言う建築を勉強しようとする集団が前身に当たる。「きーぷらん」として見学会や研修会を開催する時に、自分たちの組織を説明してもなかなか判って貰えなかった。大都市と違い、地方では(社)山形県建築士会は大きな組織として認められている。「きーぷらん」は、その中に入ることによってのメリットを考え、(社)山形県建築士会酒田支部の青年部の中に女性部を作り、独立して活動を始めた。

それから(社)日本建築士会連合会(各都道府県の建築士会をまとめた上位組織)でも女性委員会を新たに創ることになった。その後、各都道府県の建築士会の中にも女性委員会を発足させる運びとなった。酒田支部の女性部を足掛かりにして、やがて山形県全体の組織として発足する事ができたのである。山形県内で81名(平成21年度)の会員が所属している。

※(社)日本建築士会連合会の組織は以下の通りである。

<(社)日本建築士会連合会> →<東北ブロック> →<各県建築士会> →<各支部建築士会>

○女性委員会の意義・目的・活動内容

全国組織(連合会)のネットワークと繋がる事による、会員のレベルや意識の向上を図っている。

活動としては、女性の目で捉えた建築のあり方、女性建築士の弱点を補足する為の研修を行っている。

また、実績としてはこれまで男性の目が届かない部分を取り上げ研究し、改善してきた。(例:バリアフリー、シックハウス、シックスクール等)改善した方がいいと判断すると行動を起こし、その結果国の法律を変えてしまった事もあったそうだ。「全国都道府県にある組織です。参加しているメンバーは、建築士であり消費者であり女性です。最初は小さな活動でもつながっている先は大きい。国の法律を変えていける、そのくらい影響力のある組織でもあります」と語った。

今後の目標・メッセージ

仕事の内容、資格を取る事全てにおいて建築士を取り巻く環境は厳しい。それでも自分の考えが形になっていき残るこの仕事は楽しいと小山さんは語る。

「大きい会社に入って教育を受けられる人とは違い個人で仕事をする場合は毎日が勉強です。新しい物がどんどん出て来ますし、いろいろな考えがありますからね。」

そう語る小山さんのお勧めの勉強法は、<いろいろな建物を建築の仲間みんなで見に行く事>なのだそうだ。一人で行くのではなくみんなで行くのがポイントだそうである。建築士の仲間が集まり感心したり批評したりしながら様々な建物を見に行く。そうすると面白い事に同じ物を見ているのに同じ見方をしていない、一人ひとり着眼点が違い10人いれば10人の視点があり発見があると言う。

「建築士会・女性委員会」、「日本建築家協会」、建築士以外のメンバーも加入している「きーぷらん」。この3つの会に所属し、個人の住宅や公共の建物を見に行くことを20年以上続けている。

この勉強を通して、個人の仕事からまちづくり、エコロジーまで勉強の対象が広がっていった。今、小山さんが心を痛めなんとかしなければと感じているのが<日本の山>の問題である。「荒れ放題の山、高齢化している林業就業者、輸入木材に押されている国産木材などいろいろな問題があります。山形は全国でも森林の多い県です。できるだけ自分のところの木材を使いたいですね。石油に頼らずにペレットや薪ストーブを使うのもいいですね。切って・使って・植えて・育ててをしていかないとなりませんね。」

(平成22年2月取材)