スポーツメンタルトレーナー兼ライフコーチ
白壁 嘉恵さん

プロフィール

1990年、山形市生まれ。

家族の影響で小学1年から柔道を始める。

山形東高、筑波大学体育専門学群卒業、同大学院で体育学の修士号を取得。

大学・大学院では柔道部に所属し、選手として柔道に励む傍ら、新しいトレーニングメニューや体操プログラムの開発を中心に、幅広い年代に向けたコーチングを専門に学ぶ。
その後、山形にUターンし山形市役所に勤務。スポーツを通じたまちづくりに携わる。

柔道4段、父母が創設した山形大学医学部スポーツクラブの指導者としても活動。
2021年に母より事務局業務を引き継ぐ。
また、選手時代にメンタルコーチングを受け、競技レベルや内面も向上した経験から、自身も資格を取得し、スポーツメンタルトレーナーとしても活動している。

私生活では2020年9月に男の子を出産、現在は育児休業中。

  • 競技歴

2008年 全日本学生体重別選手権大会57kg級 3位
2009年 全日本学生体重別選手権大会57kg級 2位
2010年 全日本実業柔道団体対抗大会 2位優秀選手賞
2011年 全日本実業柔道団体対抗大会 3位
2011年 全日本実業柔道個人選手権大会57kg級 3位
2008年~2012年 講道館杯全日本柔道体重別選手権大会出場 ベスト8

  • 資格等

コーチング塾 Integrity(1期生)修了
JADP認定スポーツメンタルトレーナー
JADP認定上級心理カウンセラー 中高保健体育教員免許(専修免許状)
公認柔道指導者資格B指導員

チャレンジのきっかけ

 大学時代にコーチングに興味を持った。きっかけは大学3年時にメンタルコーチに出会ったことだが、やはり家族の影響も大きかった。
 家族は両親と2歳上の兄、5歳下の弟。東京出身で講道館で柔道をしていたこともある父の影響により兄に続いて小学1年から柔道を始めた。その後2年間、父の研究のため家族でアメリカに留学、小学3年時、全米大会で優勝した。

 1999年に帰国、父は山形大学に医師として勤務する傍ら、子どもから大人まで多くの人にスポーツの機会を提供したいという思いから山形大学医学部スポーツクラブ(山大クラブ)を作り、指導するようになった。母は専業主婦兼ピアノの先生だったがチャレンジ精神旺盛で、山大クラブをよりサポートできるよう40歳を過ぎてから黒帯を取得するほどエネルギッシュな人だ。

 兄は小さい頃から文武両道。宇宙の分野で仕事をするという夢を叶えており、常にこの兄の後を追い、追いつき追い越したいと頑張っていた。弟は昔から芸術のセンスが抜群で、しっかり自分の世界を持っていた。
 そうした家族の中で育ち、自分で自分の道を開拓していきたいという思いが強くなっていった。その一方で、劣等感を抱くようにもなっていた。

 二つ年上の兄と同じ高校に進学、兄は成績優秀で、柔道でインターハイにも出場した。そんな兄と自分を比較し、比べられているのではないだろうか。自分は劣っていると思われているのではないか、と意識するようになった。
 柔道でも兄に追いつきたかった。高校3年時にはインターハイに出場、さらに柔道を極めたいと筑波大学に進学した。しかし、周囲には日本代表クラスの選手がたくさんおり、実力の違いを実感する日々。どん底からのスタートだった。それでも辞めるという選択肢はなかった。山形出身だから弱いと思われるのが悔しい。その反面、「こんな私が勝ちたいと思っていいのか」と自己効力感(※)が低くなるばかり。そんな時に出会ったのが、メンタルコーチングだった。
 (※)自己効力感(自分が目標を達成するための能力を持っていると認識すること)

尊敬する兄弟
現役時代

チャレンジの道のり

 大学3年時、柔道部でメンタルコーチを呼んでセミナーが開かれた。話を聞いて、「何か変えたい。もっと『自分はできる』と信じられる自分に戻りたい」と思い、個人的にメンタルコーチングを受けることにした。コーチとの対話を通じて自分の内面にある考えや思いに気づいていくうちに、次第に「勝ちたいと思っていいんだ。自分はもっとできる」という感情が湧いてきた。
 こうしてメンタル面が良い状態に向かうと成績にも反映され、全日本選手権に幾度も出場、全国の舞台では入賞を収めた。しかし、日本代表にはあと一歩、及ばなかった。いま振り返ってみると、「その先の日本代表として自分は戦っていいのか」という思いが残り、「自分の可能性を信じていい」と自分に許可を出せなかったことが大きかったと思う。

 大学院修了を前に、この先の方向性に悩み、両親に相談すると、山形市職員の採用試験を受けてみてはどうかと言われた。スポーツなどの活動経験を山形市のまちづくりに生かすことのできる人材を募集する特別選考枠があるという。「お世話になった山形に少しでも恩返しをしながら現役生活を終えよう」。そう決めて山形に戻った。
 社会人となり山形市役所に入職し、環境も変わり忙しい毎日。「責任を持ってしっかり仕事をしなければ」という気持ちと、「選手生活も100%の状態で頑張りたい」という思いとで葛藤し、半ば燃え尽き症候群の状態で現役を引退した。

 その後、2020年の東京オリンピックに向け、山形市がサモア・タイ・台湾の選手を応援するホストタウン事業に携わった。柔道選手の事前合宿のコーディネートやスポーツイベントの運営などを担当し、好きなスポーツに関われて、とてもやりがいがあった。
 ところが2020年3月、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、東京オリンピック開催が1年延期になった。この年の秋には出産予定だったこともあり、育児休業を3年間取得し、その間、自分のキャリアについて今後どうしていったらいいか、じっくり考えることにした。 

 山形に戻ってきた当初、現役選手だったので、市内の高校の柔道部に行き、練習をしていた。一緒に練習する生徒を見ていて、「全国大会に出場することだけが目標になっている。もっとその先を見据えて、自分の可能性を信じて、全国大会での優勝を目指してもいいのに」と感じることが多かった。「自分の可能性を信じていい」と自分に許可を出す難しさはよくわかる。だが、大学時代にメンタルコーチングを受けて、自分は変わった。だからこそ「メンタル面で高校生のサポートができたら」という思いが湧いた。そこで、機会を見つけて生徒に自分の経験を話していたが、うまく伝わらないこともあった。「いつか、メンタルコーチングについてきちんと学びたい」。以前から抱いていたその思いを、育児休業を有効に活用して実現しようと思った。

 息子の誕生から半年ほどが経ち、少し落ち着いてきた頃、メンタルコーチの知り合いがコーチング塾を開くと知った。講師は山形出身で、現在は神奈川で活動している方だった。スポーツに限らず、いかに自分の可能性を引き出していくかにフォーカスしたコーチングで、その塾に入り1期生となった。
 大学でスポーツ心理学については学んでいたが、さらにスポーツメンタルについて学びたいと思い、スポーツメンタルトレーナーの資格を取得した。選手の気持ちを理解し、課題を見極め、競技力が向上したり、試合などの本番で実力を発揮できるよう心理面からサポートする役割だ。こうして、ようやくスポーツメンタルトレーナーとして活動できるベースができた。

柔道の指導

現在の活動内容

 育児休業は、やはりキャリアが中断するという思いがあり、社会との接点もほしかった。
 メンタル面のサポートは実践が大事だと思い、SNSで「メンタルコーチングをやります!」と情報発信した。思いがけず反響が大きく、柔道部だけでなく多種目の高校生などを対象に、ボランティアでオンラインセミナーを開催した。

 しばらく精力的にメンタルコーチングの活動をしていたが、息子が1歳になると歩き始め、行動も活発になって目が離せなくなった。息子との時間も大切にしたいし、家事もきちんとやりたい。手を抜くことができない性格ということもあり、今は自分の体と心の声を聞きながら無理をせず、できる範囲で活動しているところだ。

 山大クラブでの柔道の指導は現在も続けている。時間は限られるものの、他の指導者の協力のもと準備体操やトレーニングメニューなど、大学で学んだプログラム開発を生かしながら、子どもたちの指導をしている。メンタル面でのサポートや柔道の実技指導もやっていきたいが、育児中の今は、どうバランスをとっていくか試行錯誤している最中だ。

スポーツメンタルセミナー

今後の目標・メッセージ

 将来的には、スポーツメンタルトレーナーとして、中学生や高校生を対象に『作戦会議ができる場』を作りたいと考えている。部活動の仲間や先生には自分の弱みを見せたくないと、周りに悩みを話せない中高生も多い。そうした子どもたちに寄り添い、子ども自身が自己対話していく中で、自分の可能性を信じられるよう後押しをする場だ。

 そして、もう一つ新しい目標が生まれた。出産する前から、山形の母親たちのオンライングループ『山形ママコミュニティmama ✻ jam〈ママ・ジャム〉』(山川唯美代表)に参加している。そのグループが協力したイベント『YAMAGATA MAM’S ON STAGE 2022~ママが“私”で輝く日~』が2022年11月にやまぎん県民ホールで開催された。10人のママが、歌やダンス、ピアノ演奏など、それぞれ得意とすることを披露するイベントで、その出演者の1人としてステージに立った。
 『自分の人生の主人公は、自分』というテーマで、5分間、スピーチをした。「私たちは周りの声や周りの目を気にしたり、誰かが決めた“〜すべき”に縛られたり、自分で自分に蓋をして遠慮してしまうことも多い。しかし、人生の主人公は自分でしかない。誰にでも活発に活動できる時期もあれば、スローダウンする時期もある。すぐに、やりたいこと全部は実現できなくてもいい。一歩ずつ、進んでいけばいい。自分の心の声や価値観を大事にしながら、自信を持って自分らしく生きていこう」。自分自身の葛藤や体験を交えながら、ありのままの思いを話した。

 話を聞いてくださった方たちから、感動した、勇気をもらったという共感の声をたくさんいただいてうれしかった。そして、「悩みながらも少しずつ前に進んでいこうとしている自分の“生きざま”を見せていきたい。それが誰かへの励ましになったらいい。男性も女性も何歳になっても自分らしく、自分の人生を輝いて生きられるよう背中を押すライフコーチの活動がしたい」。そんな自分自身の方向性が、よりはっきりとしてきた。

  『Love the life you live,Live the life you love.』。これはジャマイカ出身のレゲエミュージシャン、ボブ・マーリーの言葉で、「自分の生きる人生を愛せ、自分の愛する人生を生きろ」という意味だ。
 まだまだチャレンジの途中で、迷いもある。しかし、大好きなこの言葉のように、自分の人生を愛し、さまざまなことにチャレンジして、自分らしく自分自身の可能性を広げていきたいと思っている。

「YAMAGATA MAM’S ON STAGE 2022~ママが“私”で輝く日~」でのスピーチ

(令和4年12月取材)