ういこファーム
渡邊 初子さん
チャレンジ分野:

プロフィール

大学時代に中国語を学び、北京への留学経験もある。

卒業後は英語習得のためにワーキングホリデーでオーストラリアへ。

帰国後に都内の企業に就職する。
その後、共通の知り合いの紹介でさくらんぼ農家の男性と結婚し、2005年に寒河江市へ移住した。
家業に関わりながら、野菜や果物を宅配するメーカーと生産者をつなぐ「ういこファーム」を2022年に立ち上げた。

また、2019年に発足した「やまがた農業女子ネットワーク(あぐっと~agood~)」のメンバーとして農業の魅力を発信している。

東京都出身。

チャレンジのきっかけ

 いずれは海外で仕事をしたいという夢があり、大学では中国語を専攻し、在学中に1年間北京に留学した。当時の中国は高度成長期で、古さと新しさが混在しており、中国の少数民族の暮らしにも触れる中で価値観が変わっていった。

 卒業後は、外国語を活かした仕事に就くために英語を学ぼうと、ワーキングホリデーを利用してオーストラリアへ渡った。1年間のワーキングホリデー後、バックパッカーでシンガポール、マレーシア、タイ、ベトナム、ラオス、カンボジアを周遊した。この時の「どんなところでも暮らせる」という経験と自信が、後々寒河江への移住を後押しすることになる。

 帰国後すぐに派遣社員として勤務し、25歳の時に工業系の社団法人に就職した。その仕事を通じて知り合った英語の通訳者の縁で、さくらんぼ狩りに寒河江市を訪れたのが夫との出会いだった。東京では高くて食べることができない真っ赤なさくらんぼを見て感動したのを覚えている。その後、妊娠、結婚。2005年に寒河江市へ移住した。

チャレンジの道のり

 仕事を辞めて結婚したことで、自分のキャリアがゼロになってしまったという思いがあった。移住した先は寒河江市の中でも雪深いところだった。冬の寒さに加え、全く知り合いのいない場所での初めての育児、そして農業と不安なことばかりだった。当時はインターネットもあまり繋がらない地域で使うことができず、妊娠中は大好きなお酒を飲むこともできない。想像もしていなかった現実に追い詰められた毎日だったが、産後8カ月で始めたベビースイミングでママ友ができたことで少しずつ不安がやわらいでいった。

 渡邊家が経営する「渡辺農園」では温室栽培と露地栽培でさくらんぼを作っている。温室栽培のさくらんぼは4月から収穫が始まる。農家の生活がわからない中で、伝票の作成など事務の仕事から始め、次第に収穫も手伝うようになった。渡辺農園では有機・低農薬野菜や無添加食品を宅配するメーカー「オイシックス(らでぃっしゅぼーや)」に、コーディネート会社を通じて出荷していたが、そのコーディネート会社が事業から撤退することになり、「初子さんに事業を引き受けてほしい」と声がかかった。渡辺農園の仕事と3人の子育ての両立ができるか悩んだが、農業は自然相手の仕事で収入も不安定なため、少しでも収入につながればという思いもあって引き受けることに決め、2020年に「株式会社ういこファーム」を立ち上げた。

現在の活動内容

 「ういこファーム」は、有機・低農薬野菜や果物を宅配するメーカーと生産者をつなぐという事業のため、生産は行わずコーディネートと販売を行っている。具体的にはメーカーと価格交渉を行い、農作物の受注量を決めて生産者に発注したり、各種書類の作成やラベル製作など細々した業務を代行している。

 また、生産者との信頼関係を築くために、定期的に圃場見学も行う。畑の状態を見たり、土壌の検査をして判断したり、時にはクライアントに付き添って農地を見に行くこともある。生産者が負担なく、できるだけ高く買ってもらえるよう、「農家のために」を理念に事業を展開している。

 現在の販売エリアは山形県と福島県。エリアを広げたいという思いはあるものの、今は一人で行っているため、目の前のことをこなすのが精一杯な状況だ。しかし、頑張っている生産者の姿を見ているうちに、農業への意識も変化してきた。自分の手で作ったものを自分の手で売って、消費者に喜んでもらえる喜びや、コロナ禍で食べるものを育てることの意義を実感したことも、農業との向き合い方を変える一つのきっかけになった。

 農業に携わっている女性たちとの出会いも大きな励みになっている。知り合いに誘われて参加した農林水産省主催の「農業女子プロジェクト」で、県内で農業に携わる女性たちと出会った。そこで、山形で農業をしている女性たちをつなげようと、4人のメンバーで「やまがた農業女子ネットワーク」を立ち上げた。現在、メンバーが63人となり、10人のコアメンバーが中心となって県内各エリアでマルシェの開催やSNSでの発信、情報交換などを行っている。また、農水省での活動発表や東北電力との対談、さくらんぼのキックオフイベントでの決意表明など、人前で話す機会が増え、たくさんの人とのつながりができた。農業にチャレンジしていくことで、自分の居場所を見つけることができた。

温室栽培をしているハウスの中のさくらんぼの木(1月)
芽の状態を確認
2月中旬に開花。
「やまがた農業女子ネットワーク(あぐっと~agood~)」のメンバーと。

今後の目標・メッセージ

 「子育てが落ち着いたら、少しずつ業務を拡大していきたいです。そのために、今はいろんな種をまいている感じです。いずれ語学力を生かし、輸出にも挑戦できればと思っています。ういこファームの事業を通してたくさんの人とつながり、自分が助ける立場になれればと思っています」。

(令和5年1月取材)