Believe 南陽 代表
松田 めぐみさん

プロフィール

1979年  南陽市宮内生まれ。
      家業の建設業に従事し、シングルマザーとして3人の子どもの子育て中。

2020年春 長女(当時中学1年生)の不登校が始まったことをきっかけに、翌年『NPO法人クローバーの会@
      やまがた』(樋口愛子代表)の親の会に参加。

2021年秋 不登校の親の会『Believe(ビリーブ)南陽』を立ち上げる。
      名前の「Believe」には「子どもの未来を信じよう」という気持ちが込められている。

現在、同市宮内の「みんなの居場所 にじ」(手塚奈美子代表)を会場に、不登校の子を持つ親たちが集まって交流する親の会と、親子が集まり自由に過ごすフリースペースをそれぞれ月に一度、開催している。

・親の会    /毎月第3金曜日 18:30~20:30
・フリースペース/毎月第2土曜日 14:00~16:00

チャレンジのきっかけ

 宮内で生まれ育ち、結婚後も実家の建設会社で経理の仕事をしていた。夫と子ども3人と暮らしていたが、母が亡くなり、父が一人になったため、家族で実家に入って一緒に暮らすようになった。

 当時小学6年生だった長女は、成績も良く運動もできる活発な子だった。しかし、中学入学を控えた2020年の春、新型コロナウイルス感染拡大のため入学式は延期され、休校や外出自粛が続くなど大きな影響を受けた。さらに大好きな祖母を亡くした喪失感も重なり、不登校になった。小学4年生だった長男も学校に行かなくなった。

 学校に相談しても解決の糸口は見えず、夫も子育てに協力的とはいえなかった。こうした状況の中で、自分一人ではどうしていいのか分からないまま、精神的に追い詰められていった。同じ頃、夫婦関係もうまくいかなくなり離婚調停を進めていた。八方塞がりの状態で、「何とかしなければ」とさまざまな相談窓口に行き、いろいろなアドバイスをもらううちに、子どもの不登校や離婚といった自分の状況を少しずつ受け入れ、冷静に見られるようになっていった。

 不登校に関する本も何冊も読み漁り、自分がどう育てられたかということが、子どもへのしつけや声がけなど子育てに影響することを知った。そして、自分自身が小さい頃から両親に厳しく育てられ、それと同じように子どもたちを育てていることに気がついた。

 ある時「今まで不登校にさせようとして育ててきたわけではない。自分なりに一生懸命育ててきた結果、こうなった。では、何が違ったのか」と思った。そして「この不登校を反面教師にしよう。これまでと180度違うことをやってみよう」と考えた。子どもが不登校になった最初の頃は「学校に行かなくてもいいから勉強しろ。いつまでゲームをやっているんだ。早く寝なさい」と口うるさく言っていたが、それを言わないでみた。かなり難しいことだったが、そうすると子どもの反応も少しずつ変わっていった。

 また、自分を責める気持ちが強かったが、カウンセリングを通してこれまでの人生を振り返り、「よく頑張ってきた」と思えるようになった。自分のことより親や夫、子どものことを優先し、他の人のためにばかり頑張って生きてきたことにも気づき、自分を大事にすること、自分軸を持つことの大切さを実感した。

チャレンジの道のり

 それから1年ほど経って同じ状況の親たちと会って話してみたいと思っていた時、子どもが学校に行き渋るようになった友人から「一緒に親の会に参加しないか」と誘われた。それが、山形市の『NPO法人クローバーの会@やまがた』(以下、クローバーの会)が開いている親の会だった。2021年6月頃のことで、当時はまだ南陽市はもちろん置賜にそうした集まりはなく、山形市は遠く感じたが参加することにした。 

 親の会で、『クローバーの会』代表の樋口愛子さんと初めて会った。参加者が一人一人、子どもや自身の近況を話していったが、その時の樋口さんの声がけや進め方が心に響いて、「こんな場所を探していた」と思った。 近くに親の会がないため、遠方から参加している親たちも多いことから、『クローバーの会』では参加者が地元の市町村で親の会をつくる取り組みを支援していた。そこで「南陽市には親の会がないから、やってみないか」と声がかかった。自分自身が子どもの不登校の渦中にあり、樋口さんのように会の進行をできるような知識も経験もない。親の会となれば、知っている人だけでなく初対面の人も参加し、その人の話や悩みを聞いてアドバイスをしなければならない。「そんなことが私にできるだろうか」と不安に思いながらも、当事者の一人として親の会の必要性を強く感じ、2021年秋に地元の南陽市で不登校の親の会『Believe南陽』を立ち上げた。

 『クローバーの会』の親の会に参加してから数か月後のことだったので、最初は樋口さんが来てくれて、その声がけを聞いて勉強しながら親の会を進めていった。集まる場所もあちこち借りていたが、地元の宮内に家主さんの厚意で地域に開放されたスペース「みんなの居場所 にじ」があったため、そこで毎回開催できるようになった。

現在の活動内容

 現在は毎月、親の会と親子向けのフリースペースを定期的に開いている。親の会では、まず参加者それぞれが子どもの近況などを語り、それをもとにフリートークをして、最後に参加しての感想などを話す。不登校の子を持つお母さんは精神的に参っている人が多いので、仲間と話し、他の人の話を聞くことで、「分かる分かる」と共感したり、「自分だけではない」とホッとしたりして笑顔が戻る。そして「今日もここで軌道修正ができた」と言って帰っていく。         

 参加したばかりの頃は子どものことだけ話していた人も、回を重ねるにつれて夫婦関係や祖父母との関係など、背景にある家庭環境の話につながっていくことがほとんどだ。一人一人の状況は異なるが、そうした話を聞く中でさまざまなことに気づいていく。母や妻としての役割を求められ、それに応えようと自分のことを後回しにして自分自身を大事にしていなかったこと、不登校は子どもや学校だけの問題でも母親の育て方だけの問題でもなく、家庭環境にも影響されることなど、同じような体験をしている仲間の話だからこそ、ストンと腑に落ちる。その気づきがきっかけとなって自分と向き合い、本来の自分らしさを取り戻していくための場、それが親の会だと考えている。                         

 フリースペースは、文字通り自由に何をして過ごしてもいい場だ。不登校の子は、学校に行かなくなると家にしか居場所がなくなる。社会とつながるためには、どこか出かけていけるところがあればいいが、学校に行っている子がいる場所には足を運びにくい。そこで、フリースペースという形で、不登校の子どもたちしか来ない場所をつくろうと思った。

 きっかけは昨年の3月、不登校の小学6年生の子が卒業を迎えることだった。『Believe南陽』の仲間たちだけで小さな卒業式を開いて「おめでとう」とみんなでお祝いし、そのお母さんにも「12年間、お疲れさまでした」と感謝状と花束を贈った。

「Believe南陽」の仲間たちだけで開いた卒業式

卒業式で松田さんとスタッフに贈られた感謝状
フリースペースで自由に過ごす子どもたち

 

 最近は、親子で体験できるイベントを企画している。今年の2月には、臨床美術士の方を講師に招いて、紙粘土でウサギをつくった。つくるのが早い子もいれば遅い子もいる。学校では同じペースで進めなければならないが、ここでは遅くても誰も急かさない。終わった後、あるお母さんから「子どもはどこにも行きたがらないが、ウサギづくりに来てよかった。つくるのが遅い様子を見て、“早く…”と思ったが、みんなが何も言わず待っていてくれてありがたかった」と言われた。これからもフリースペースを親子で集える楽しい場所にしたいと思っている。

フリースペースで開いた紙粘土でウサギづくりのイベント

今後の目標・メッセージ

 不登校に対する社会の偏見を変えたい。不登校の子が日中、家にいると必ず「学校は?今日は休み?」と聞かれる。子どもはそう聞かれることを以前は嫌がったが、私が不登校を隠さなくなると、子どもも恥ずかしくなく「学校に行っていない」と言えるようになった。近所の人にも挨拶ができるようになり、社会性も身についてきた。

 「不登校は問題行動だ、学校には必ず行かなければならない」という見方や声がけが変わり、学校に行かない子も受け入れられる社会になってほしい。『Believe南陽』でも、不登校児が社会とつながれるような活動を企画していきたいと考えている。

 また、不登校の子を支える親が孤立しないようフォローし、伴走していくことが必要だ。私自身、3人の子どもの不登校から学ぶことがたくさんある。その経験を通して、これからも辛い時に安心して自分の悩みや不安を話せる場づくりに取り組んでいきたい。

 私はよく周りの人から「明るい人」「行動力がある」と見られる。今の明るさは本来のもので、不登校をきっかけに自分と向き合い、自分の心の置き場所が分かったことで心から笑えるようになった。

 子どもを支えるには、お母さんが自分を大事にし、自分自身を満たして、心に余裕を持つことも大切だと実感している。今も「母は、妻は、こうあるべき」という固定観念に苦しむお母さんは多い。『Believe南陽』を、そうしたお母さんを癒やす居場所にしていきたいと思っている。

活動拠点になっている「みんなの居場所 にじ」

(令和5年7月取材)