くしびきこしゃってプロジェクト代表
宮城 妙さん

プロフィール

1979年 鶴岡市(旧櫛引町)生まれ。

高校卒業後は武蔵野美術大学で家具デザインを学び、都内のデザイン事務所に就職する。

結婚後、東日本大震災をきっかけに2012年に鶴岡へUターンし、夫とデザイン事務所「humming DESIGN」を立ち上げる。
グラフィックデザイナーの傍ら、家業のさくらんぼ農園の広報を担当している。

2013年にスタートした鶴岡市が主催する「鶴岡まちづくり塾」に参加したことを機に、2014年に仲間と『くしびきこしゃってプロジェクト』を発足する。

『くしびきこしゃってプロジェクト』は、季節ごとにマルシェを開くなど地元に根差した活動が山形県の地域活性化に寄与する若者たちの取り組みとして評価され、2019年度に「輝けやまがた若者大賞」(山形県主催)を受賞し、2020年度には「未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー」で内閣府特命担当大臣表彰を受けた。

チャレンジのきっかけ

 大学卒業後は東京で就職したが、いずれUターンすることも視野に入れながら働いていた。そんな中、東日本大震災が起き、宮城県南三陸町にある夫の実家が被災してしまった。そのことから「家族の近くにいたい」という思いが強くなり、地元の庄内に戻った。Uターン後に、移住してきて庄内での暮らしを楽しんでいる人たちと出会い、「何もない」と思っていたふるさとがとても魅力的なエリアだと気づいた。

 地域の人と顔を合わせ、言葉を交わしながら地元の魅力をシェアしていきたいと思っていたタイミングで、鶴岡市主催の「鶴岡まちづくり塾」を知った。この塾は、鶴岡市の各地域に住む将来を担う若者の人材育成を目的に、鶴岡・藤島・羽黒・櫛引・朝日・温海の計6つのグループに分かれ、交流しながら実践的にまちづくりをおこなっていくというもので、家業のさくらんぼ栽培を手伝いながら、マルシェでの販売を漠然と考えていたこともあり参加した。そして、そこに集まった櫛引の人たちと、地域に賑わいの場をつくることを目的に、『くしびきこしゃってプロジェクト(※)』を立ち上げた。
(※)「こしゃって」は「作って」という意味の庄内弁。

チャレンジの道のり

 『くしびきこしゃってプロジェクト』では、メインの『こしゃってマルシェ』のほか木工のワークショップや婚活イベントなど、さまざまな事業が提案された。いずれにも共通するのは、庄内エリアで活躍する人や材料など地元の地域資源を活用し、“庄内らしさ”を大切にすることだ。

 プロジェクトがスタートするまでは1年間の準備期間があったものの、櫛引グループの10人のメンバー全員がそれぞれの仕事の合間に活動していることもあり、スケジュール管理がスムーズにいかないことも多々あった。発足時は副代表だったため、「みんながやりたいことを具現化していくために自分ができることは何か」ということを考えながら活動していた。

初めの頃は木工のワークショップを単独で
開催。

現在の活動内容

 2014年に『くしびきこしゃってプロジェクト』がスタートした。メイン事業の『こしゃってマルシェ』は年3~4回開いている。5月は「あおば市」、9月は「みのり市」、11月は「冬じたく市」と季節によって名称も変わる。「農」「食」「手しごと」をテーマに、生産者、飲食店、ハンドメイド作家の販売ブースが並ぶ会場は、いつも大勢の人で賑わう。販売のほかにも、庄内地域で活躍する作家やアーティストなどを講師に招き、染料染め、カッコウ笛やアフリカの楽器「カリンバ」などの楽器制作や、ダンス、スラックライン(※)、燻製づくりなど、毎回テーマの異なる5~6つの「地域の魅力を学ぶ」ワークショップを企画している。また、鶴岡の森を身近に感じてもらうため、『こしゃって森と木プロジェクト』の一貫として、マルシェの中で木工工作体験も実施している。キーホルダー、木べらなど毎回違うアイテムを作れるとあって、子どもから大人まで好評を得ている。

 これまで企画したワークショップは150を超え、来場者は多い時で1,500人を数える。マルシェでは、生産者を応援していくつながりや、出店者同士で新たなビジネスも生まれている。こうしたプロジェクトをとおして、日頃見過ごしてしまいそうな地域素材や、魅力ある人たちが地元にいるということを知ることができた。

(※) 二点間に張り渡した細いベルト状の専用ラインの上でバランスを楽しむスポーツ。綱渡りとトランポリンを合わせた特徴がある。

広報物はすべて宮城さんの
デザイン
出店数は約20店舗。コロナ前は30店以上の出店があった
サインボードも可愛い
工作に夢中!
大好評の楽器作り
「おはなしひろば」での絵本の読み聞かせ
「こしゃって工房」では木工品作りが
 楽しめる

今後の目標・メッセージ

 取り組みを始めてから今年で9年目になる。地域の人たちが集える場として、さらに『こしゃってマルシェ』が定着していくことを願っている。出店者同士のつながりや、参加してくれる子どもたちの成長を、マルシェを通して感じられるのもうれしいことで、大きくなって地元を離れても、また戻ってきたいと思えるような郷土愛を育んでいけたらと思う。

 『こしゃってマルシェ』が地元の豊かさをみんなで味わえる“場”になり、そして、そのつながりが日常の暮らしの豊かさへと広がっていくように、庄内に住む人たちとここで暮らす「楽しさ」や「誇り」を共有しながら活動を続けていきたい。

(令和5年9月取材)