「大人の朝活&子どものための朝ごはん食堂すず」運営
黒田 幸子さん
チャレンジ分野:

プロフィール

1966年 天童市生まれ、山形市在住
2005年 山形市で創作料理の店「味工房すず」を開店
2019年 「健康な食事・食環境」認証制度において、山形市内で「外食部門」認定第1号、さらに最高評価の三ツ星に認定される
2023年 「大人の朝活&子どものための朝ごはん食堂すず」を開始

【大人の朝活&子どものための朝ごはん食堂すず】
・日時 毎週土曜日(4月~11月は毎週火曜日と土曜日)午前7時~8時半
・対象 朝ごはんを食べたい人(電話予約の方優先・なくなり次第終了)
・料金 未就学児無料 小学生100円 中学生200円 高校生以上300円(全て税込)

チャレンジのきっかけ

 結婚後は夫婦で食品加工の工場を営み、食品会社の下請けとしてホテルや旅館の食事で出される料理の一部をつくっていた。息子が3歳になった頃、まだ子どもは小さいし経験もなかったが、自分のお店を持ちたいと思った。迷いながらも夫や両親に相談すると意外にも反対されず、2005年に山形市で創作料理の店「味工房すず」を開店した。お店をオープンすると、家で息子と一緒にご飯を食べることが少なくなった。気にはなったが、当時は「家族と一緒に居るのだから寂しくないだろう」と考えていた。

 その後、離婚してシングルマザーになると、お店の仕事で手いっぱいで息子に朝食を用意してあげられない日もあった。息子は小学生になると、お店が定休日の月曜日に学校を休んだりするようになった。当時は、こうした息子を「難しい子だ」と思っていたが、あとになって、あれは母親と一緒に過ごせないことへの息子の精一杯の抵抗だったのだと気づいて、胸がいっぱいになった。

 やがて息子も大人になり、お店は繁盛して順調だった。しかし、コロナ禍で状況がガラッと変わり、飲食店は営業を自粛せざるを得なくなった。お客さんと触れ合えないことがとても寂しく、人が集まってイキイキしていたお店がまるで死んだように静まり返っているのがたまらなかった。コロナ禍もようやく落ち着きをみせ、客足も少しずつ戻りはじめてやっと人が集まれると思った時、何となく耳にしていた「子ども食堂」という言葉がポンと頭に浮かんだ。「子ども食堂」なら、お店が人の集まる楽しい場所になるのではないかと、ふと思ったのだ。

チャレンジの道のり

 自分が子育ての時期には、忙しくて息子と一緒にゆっくりご飯を食べることも少なかったという後悔が残っていたので、“同じような家庭がほかにもあるのではないか。親子で一緒に朝ごはんを食べる時間をつくってあげたい”という思いが湧き上がってきた。
 さっそく「子ども食堂」について調べ始め、あれこれ思いついたことをメモしていた。お店のカウンターに置いていたそのメモをたまたま目にした常連さんから、「子ども食堂をするのか」と聞かれた。「将来の夢だ」と答えると、「始めなさいよ」と言ってポンと資金を提供してくれた。大きな金額ではなかったが、常連さんの温かい気持ちに背中を押された。“お店だから場所もあるし食器も使える。これは始めるしかない”と思い、お店で働くようになった息子に相談すると、快く協力すると言ってくれた。

 「子ども食堂」というと、貧困家庭で食事を食べられない子どもが行くところといったイメージがあったが、“誰でも集える明るい場所、地域の交流拠点のような場所”にしたいと考えていた。一人暮らしの人や出勤前のサラリーマン、たまには家族でゆっくり朝ごはんを食べたい人たちや朝の食事の用意が大変な人、そんな人たちが気兼ねなく来られる場所にしたいという思いから、少し長いが「大人の朝活&子どものための朝ごはん食堂すず」(以下、「朝ごはん食堂すず」)という名前にした。
 「子ども食堂」の支援をしている山形市社会福祉協議会の「山形市子どもの居場所づくり支援センター」を訪ねて話をすると、山形市内全ての幼稚園・保育園・小学校に連絡をしてくれた。チラシを置いてもらえることになり、職員の方も10日近くかけて一緒に回ってくれた。ほかにも地域の商店街の人たちが協力してくれて、それぞれのお店にチラシを貼ってくれた。

 どれくらいの人が来てくれるのか全くわからなかったが、まずオープンしてみようと2023年8月5日土曜日、「朝ごはん食堂すず」をスタートした。「子ども食堂」を思いついてからオープンまで、1か月も経っていなかった。

息子の悠馬さんと
「朝ごはん食堂すず」の
チラシ

現在の活動内容

 「朝ごはん食堂すず」は「味工房すず」の経営とは切り離し、朝の時間を活用して毎週土曜日(4月~11月は毎週火曜日と土曜日)の午前7時から8時半までおこなっており、毎回40人~50人分の朝食を用意している。
 1日の始まりの朝ごはんには、心と身体の感性を開くパワーがたくさん詰まっていると思う。子どもたちの健やかな成長を応援したい、家事に仕事に頑張っている大人たちを応援したい、そうした思いを込めて、旬の野菜を使った具だくさんのあったかい味噌汁や手づくりのおむすび、安心・安全な野菜のおかずを出している。

 オープンして半年が経ち、「朝ごはん食堂すず」には幼稚園や小学生の子どもと一緒に来てくれる家族やお店の近所に住む一人暮らしのお年寄り、単身赴任の人など、さまざまな人が食べに来てくれる。
 お母さん方からは「ニンジン嫌いな子が、ここに来たらおいしいと言って食べたのでびっくりした」「普段はあまりご飯を食べない子が、おかわりして驚いた」などと喜ばれている。また、コロナ禍で集まる機会がなくなり、孤立しがちな近くのお年寄りたちが一緒に朝ごはんを食べる例会の場にもなっている。また「うちの畑でつくっているから」「家で食べきれないから」と、野菜や果物、お米などを持ってきてくれる人や、ボランティアで調理を手伝ってくれる人もいる。そういった周りの人たちの支えも大きい。

 今年の1月には「お餅つき」をした。これも「朝ごはん食堂すず」を応援してくれる方が、「杵と臼を持っているので、餅をついて子どもたちに食べさせたい」と無料で開いてくれたもので、昔ながらの餅つきに子どもも大人も大喜びだった。

「朝ごはん食堂すず」で提供している朝食
「朝ごはん食堂すず」に食事にきた
子どもたちと
餅をついてみんなで食べた「お餅つき」

今後の目標・メッセージ

 昨年のクリスマスの時、「朝ごはん食堂すず」に来てくれた子どもたちに、クッキーやお煎餅と一緒に紙風船や竹トンボなどを詰め合わせたプレゼントを渡した。こうした伝統的な遊びは消えつつある。地域の方がそういった遊びの“先生”になって一緒に楽しめば生きがいにもなるし、子どもたちにとっては新鮮な遊びで、日本の文化を知る機会になる。そんな交流の場もつくっていきたい。

 仕事柄、健康に暮らしていくためにはバランスのよい食事が大事だと思っている。以前、身内が病気になった時に「食」の重要性をより強く感じた。そこで10年ほど前に「健康管理士一般指導員」の資格を取った。そうした知識とこれまでの経験を生かして「食育」をおこないたい。「食」は生きる基本なので、子どもたちやお母さんたちに「食」の大切さを伝えていきたいと考えている。

 畑を貸してくれるという人もいるので、子どもたちと一緒に野菜を育て、収穫して、みんなで料理をつくって食べる—―それも食育になるだろう。「朝ごはん食堂すず」を中心に、地域の交流の輪を広げていきたいと夢が広がるばかりだ。

(令和6年1月取材)