障がい者製品販売支援「鶴屋」
吉田 遥子さん

プロフィール

1995年 朝日町生まれ、米沢市在住
2017年~2020年 玉川大学教育学部を卒業後、ドイツにてワーキングホリデー
2020年 帰国し、教員として山形県立ゆきわり養護学校に勤務
2022年 教員を辞め、「鶴屋」という屋号で障がい者製品販売支援の活動を開始

〈就労継続支援B型事業所〉
一般企業での就労が困難な障がい者に対し、雇用契約を結ばずに就労や生産活動の機会を提供する事業所

チャレンジのきっかけ

 大学の教育学部で学び、教員免許を取ったが、学生時代によく海外旅行をしたこともあり、卒業して社会に出る前に海外で生活してみたいと思い、2017年にワーキングホリデービザでドイツに渡った。

 ドイツで知り合った友人には、社会課題を解決するための会社をやっていたり、使命感を持って社会的な活動をしている人が少なくなかった。自分も何かそうした活動をやりたいと思うようになった頃に新型コロナの流行が始まり、2020年に帰国した。

大学卒業後、ドイツで生活

 山形に戻り、上山市にある肢体不自由児のための特別支援学校「山形県立ゆきわり養護学校」に教員として勤務するようになった。ドイツでは、障がい者も街なかで普通に見かけていたが、日本の教育現場で障がいのある人たちと実際に接してみると、「街に買い物に出かけるとジロジロ見られる」といった話を聞いた。日本では、障がい者はまだまだ社会の一員として尊重されていないと感じた。

 そうした中で、進路指導に関わることがあった。卒業後、一般の企業で働くことが難しいため、就労継続支援B型事業所(以下、B型事業所)で働く生徒もいた。B型事業所では給料は「工賃」と呼ばれるが、2020年度の山形県の障がい者の平均工賃は「時給167円」で、全国最低だと知って衝撃を受けた。ちなみにこの年の全国平均は「時給222円」で、1時間あたり55円も低かった。この現状を知って「どうして長い間、全国で最低レベルの状況が続いているのか」という疑問が生まれた。いろいろ調べてみると、B型事業所は基本的に単価の安い下請け仕事が多く自分たちで価格を決められないことや、自主製品は価格が安く売上が伸びないことなどが背景にあるとわかった。そして、「教え子たちのために何かできることはないだろうか。この状況を改善するために社会に問題提起してみよう」という思いが強くなり、教員を辞め、B型事業所の工賃の向上につながる活動に取り組むことにした。

チャレンジの道のり

 2022年、「鶴屋」という屋号で障がい者製品販売支援の活動を始めた。祖父が昔、「鶴屋商店」の名で酒屋を営んでいて、子どもの頃から“商品”と“人”をつなぐ商売が身近だったことも販売支援をしようと考えた根底にあったのかもしれない。
 「鶴屋」では、B型事業所で働く障がい者の人たちがつくった自主製品の中で、自分が欲しいと思えるものだけを扱い、店舗を持たず、SNSを活用することにした。こうした活動をしている人は全国的にも珍しく、しかもフリーで実績もないため、まず県内にあるB型事業所に電話することから始めた。「こういうことをやっています」と話し、興味を持ってくれたB型事業所を実際に訪問する。その繰り返しだった。
 販売支援について説明しても、「自分たちがつくったものは、自分たちで販売する」と断られることも多かったが、職員の方と直接会って話をするうちに商品を紹介してもらうなど、次第に信頼関係を築いていった。

 あちこちのB型事業所を訪ねてみると、自主製品のお菓子やパンなどはしっかりと素材にこだわってつくられ、完成度の高い商品が多かった。しかし、それが安い価格で販売されているため、利益が出ない状況だった。そこで、ビジネスの視点で、商品の価値をわかってくれる人に売り、利益を上げようと考えた。
 たとえば、山形県産の米粉を使った商品で、とてもおいしいものでも、山形に住んでいる人にとってはそれが普通で、価格も他の商品とあまり変わらない。しかし、首都圏で販売すると、「米どころ山形の米粉でつくられた商品」の価値をちゃんとわかってくれて、県内で売るよりも高い価格で売れる。販売ルートとターゲットを明確にした上で、販路拡大の支援をすることの重要性を実感した。

現在の活動内容

 当初は、B型事業所から自主製品を仕入れて販売するだけだったが、信頼関係が深まるにつれて、いろいろと相談を受けることも増えた。職員の方たちにとって、日々の業務に加えて新しい商品を開発したり、販路を探したりすることは大きな負担になる。また、営業のノウハウを持たない方がほとんどで、「売れるもの」より「自分たちでつくれるもの」という視点で製品をつくっていた。そのうちに、企画段階から一緒にオリジナル商品の開発をしていく仕事も依頼されるようになった。コンサルティングの勉強をしたことはないが、誰よりも障がい者の事業所を回り、実情を見て学んできたので、その経験を生かして役に立ちたいと商品の開発にも携わっている。

 商品開発の第1号は、2023年5月に100箱限定で販売した「母の日ギフト」だ。山形市内の2つのB型事業所のコラボで、全粒粉を使った香ばしいクッキーに、生でも食べられるエディブルフラワーの春の花・ビオラを乗せて焼いたお菓子で、とても好評だった。無添加でオーガニックな素材だけを使用して、クッキーの素材や生地の厚さ、味の変化、花の種類、大きさや長さなど、何度も試作を重ねてもらい販売までたどり着いた。
 また、県内各地の5つのB型事業所に協力してもらい、1箱に6種類のパンを詰め合わせたパンセット、バレンタインデーやハロウィン、クリスマスなど季節のイベントに合わせたお菓子ボックスなども企画・販売し、首都圏をはじめ県外の方からも購入してもらえるようになった。

 県内には素敵なものをつくっているB型事業所がたくさんある。そうした複数の事業所の自主製品を集め、各地で開かれるマルシェに出店して販売し、各事業所の知名度の向上も図っている。障がいがある人たちがつくった商品に関心を持ってくれる方が大勢いることはとても嬉しい。しかし、購入してくれるのは一般の消費者なので、商品としての価値があり、どれだけ人の目を引きつける商品をつくれるかが大事で、試行錯誤の日々だ。 

母の日のギフト・ボックス
クリスマスのお菓子ボックス
県内各地のマルシェに出店

今後の目標・メッセージ

 山形県の障がい者の工賃・時給が全国で最低レベルだという現状を知ってもらうことが一番の目標だ。他の県と比べて工賃が低いことを認識していないB型事業所も多いので、まず現状を知ってもらいたい。その上で、価値のある商品の企画・開発をとおして少しずつ現状を変え、工賃の向上につなげたいと活動している。

 同時に、障がいがある人たちの生きがい・やりがいも大切にしていきたい。障がい者にとって「お金をたくさんもらえること」が喜びの基準ではなく、自分たちが一生懸命につくったものが「たくさん売れたこと」が純粋にうれしい人や、「頑張って卵をいっぱい割ったのが楽しかった」という人など、さまざまな価値観の中での喜びがあることを気づかされた。一般的に障がいがある人と触れる機会が少ないので、そうした障がい者の素顔を知ってもらうことも、自分の役割だと考えている。

 活動を始めてまだ日が浅いが、少しずつ輪が広がってきていると感じている。「山形県の障がい者の工賃を日本一にしたい!」この大きな目標に向かって、これからも活動に取り組んでいきたい。

(令和6年1月取材)