一般社団法人YAMAGATA ATHLETE LAB.(ヤマガタアスリートラボ)代表理事 コンディショニングコーチ
池田 めぐみさん

プロフィール

1979年生まれ、南陽市出身、在住。
元フェンシング・女子エペ(※)選手
※エペ・・・フェンシングの3種目のうちの1つ。全身すべてが有効面で、先に突いたほうにポイントが入る。

【競技歴】

2003年~2005年 全日本フェンシング選手権大会 女子エペ個人優勝
2004年 アテネオリンピック エペ個人28位
2008年 北京オリンピック エペ個人15位
2010年 広州アジア大会 エペ団体優勝

【学歴】

1998年3月 山形県立米沢興譲館高等学校 卒業
2002年3月 東京女子体育大学 卒業
2006年3月 筑波大学大学院修士課程 修了

【現職・役職・活動など】

2021年~現在 公益財団法人山形県スポーツ協会 スポーツアドバイザー
2005年~現在 日本アンチ・ドーピング機構 アスリート委員/評議員
2016年~現在 日本サッカー協会 JFAこころのプロジェクト 夢先生
2018年~現在 山形大学 非常勤講師
2019年~現在 日本スポーツフェアネス推進機構 理事
2020年~2022年 経済産業省 地域×スポーツクラブ産業研究会 委員
2021年~現在 南陽市教育委員会 委員
2021年~2022年3月 スポーツ庁 スポーツ審議会第3期スポーツ基本計画部会 委員
2021年~現在 公益財団法人日本スポーツ協会 理事
2022年~現在 一般社団法人YAMAGATA ATHLETE LAB.設立 代表理事
2023年~現在 スポーツ未来開拓会議(スポーツ庁×経産省) 委員
2023年~現在 日本スポーツ政策推進機構 理事

【山形県内の主な活動】

・第7次山形県教育振興計画検討委員会 委員
・山形県スポーツ推進審議会 委員 
・南陽市振興審議会 委員
・山形県スポーツコミッション 委員
・山形県フェンシング協会 理事
・山形県薬事審議会 委員

チャレンジのきっかけ

 フェンシングを始めたのは、米沢興譲館高校に入学してからだ。2歳上の姉がフェンシング部に入っていたこともあるが、顧問の先生に誘われたのが直接のきっかけだった。中学時代に陸上競技の東北大会で三種競技の優勝経験もあったので、素地があるのではないかと声をかけてくださったのだと思う。

 高校3年の時、インターハイで4位に入賞し、「フェンシングを続けて、子どもの頃からの夢だったオリンピックに出たい」と東京女子体育大学に進学した。大学4年で初めて日本代表に選ばれ、本格的に世界の選手たちと戦うことになった。大学卒業後は筑波大学の大学院に進み、世界に挑戦したいと単身ハンガリーに渡って武者修行をしながら、オリンピック出場に必要なポイントを獲得するためにヨーロッパ各地で開催されているワールドカップを転戦した。

 夢を実現し、2004年のアテネ、2008年の北京と2大会連続でオリンピックに出場した。北京大会では女子個人エペで日本人過去最高の15位だった。一方で、その間に2回、膝の靭帯を断裂する大けがをした。この経験から、自分の身体と向き合うことがいかに大切かを学んだ。

 2009年に結婚。翌年の2010年には中華人民共和国広州市で開催されたアジア大会に出場し、エペ団体で優勝した。この波に乗り、次のロンドンオリンピックを目指そうという時、乳がんを患っていることがわかり、2011年に現役を引退した。

 アスリートは勝ち続けることはなく、必ず負けを経験する。だから、ずっと負けを引きずっていては、次に向かうことはできない。これまでたくさんの挫折や怪我を乗り越えてきた。病気はショックだったが、スポーツを通して乗り越える力を身につけることができたので、この先の未来に向かっていくことができた。

2010年広州アジア大会(写真左が池田さん)
2010年広州アジア大会・エペ団体優勝
(写真右が池田さん)

チャレンジの道のり

 アスリートとして競技生活を送りながらも、フェンシングだけの世界、オリンピックを目指すだけの生活ではなく、自分の中にいろいろな世界を持っていたいと考え、さまざまな活動をしていた。

 一つは日本アンチ・ドーピング機構の活動で、現役時代から携わってきた。アンチ・ドーピングは「クリーンで公正なスポーツを守るための活動」だ。ドーピングの問題は、これからのスポーツ界にとって、ますます重要になるテーマだと思っていた。

 また、幼稚園でコーディネーションスクールの活動を続けていた。これは、運動神経系が成長する子どもの時期に、いろいろな身体の使い方をすることで空間認知やバランス感覚、リズム感などを養い、基礎的な運動能力を高める活動だ。子どもが好きなこともあり、週に1回だけ午後の練習を休んで幼稚園に通っていた。

 引退した後は、山形県スポーツ協会のスポーツ指導員として活動するようになった。スポーツ指導者の講習会やスポーツに関するさまざまな会議などに参加する機会が増え、講演の依頼も受けるようになった。

日本アンチ・ドーピング機構の活動
WADA(世界ドーピング防止機構)のセミナーで講演

 

 2016年からは、日本サッカー協会の社会貢献活動「JFAこころのプロジェクト」に参加し、「夢先生」の活動を始めた。小学生や中学生に「夢を持つことの素晴らしさ、それに向かって努力することの大切さ、失敗や挫折した時にどうやって乗り越えるのか」を伝えることがプロジェクトのコンセプトなので、自分が失敗したこと、負けて落ち込んだところからどうやって立ち直ったかなど、自分自身の体験を伝えてきた。

 さらに、山形大学の非常勤講師、日本スポーツフェアネス推進機構や日本スポーツ協会の理事なども務めるようになった。こうして“スポーツ”を軸に活動や仕事の領域が広がっていくとともに、スポーツと人々の暮らしをつなげていくこと、また「アスリートの力を、山形の力にしていく」という思いが一層強くなった。そうした思いと縁と運とタイミングが重なり、2022年12月に一般社団法人YAMAGATA ATHLETE LAB.(以下、ヤマガタアスリートラボ)を仲間とともに立ち上げた。

日本サッカー協会「JFAこころのプロジェクト」の「夢先生」

現在の活動内容

 「ヤマガタアスリートラボ」は「アスリートの力を、山形の力に」をコンセプトに、人と人をつなげ、スポーツだけでなくさまざまな学びや体験を提供する活動をしている。その活動の一つの柱がコンディショニング事業だ。アスリートは、実力を最大限に発揮して強くなるために、身体面や体調管理、メンタル、睡眠や栄養など、トータルにコンディショニングし、自分自身を整えている。このハイパフォーマンスの分野で進化してきたトータルコンディショニングを、日々の暮らしを生きる人々にも伝えていきたい。

 そこで、自身の体験も交えながら、日本スポーツ振興センターより発刊された『トップアスリートにおけるトータルコンディショニングのガイドライン』などエビデンスがしっかりしたものを活用しながら、体調をより良くして日常の生活の質を向上させる情報や、フィジカルエクササイズを提供している。例えば、肩が凝る、腰が痛いという時に、なぜ痛みが起こるのか、その原因を説明し、さらに提供するエクササイズをする理由を伝えている。アスリートとして経験してきたことや、ハイパフォーマンスで進化してきたことを、人々の暮らしに役立てていけたら、アスリートの新たな価値が創造されていくと思っている。

 2023年2月には、地元の南陽市と「健康まちづくりを推進するための包括連携協定」を 締結。定期的にコンディショニング教室を開催している。中学生以上なら誰でも参加でき、子ども連れの方も気軽に来られるよう保育士さんの見守りを利用できるようにした。

 アスリートへの支援も活動の一つだ。スポーツに取り組む中で、競技レベルや年齢、活動している地域に関わらず、自分自身の身体や健康管理の悩み、ハラスメントの問題など、「どこに相談したらいいかわからない」と悩むアスリートは少なくない。以前から、そうした人たちの“駆け込み寺”のような支援体制を山形に構築したいと考えていた。現在は、相談窓口の紹介など、アスリートに寄り添った活動にも取り組むための準備をしている。

 “暮らしとスポーツをつなぐ”ために、昨年から、山形ゆかりのアスリートを交え子どもたちと一緒に高畠町の有機農業の田んぼで「田植え体験」を行なっている。子どもたちはアスリートとともに泥んこの田んぼを走って競争したり、手で苗を植えたりした。もちろん始める前にはコンディショニングもやった。

 スポーツだけでなく、子どもたちの身体はこうした日常の暮らしにある活動や、遊びの中でつくられていく。スポーツは整えられた体育館やフィールドといった場所でやるだけでなく、周りを見渡せば、山形県の中にはいくらでも体を動かせる場所があるので、どこでもできる。身体を使って遊び楽しむこと、身近な暮らしとスポーツがつながっていることを多くの人たちに体験してもらえるよう、これからもさまざまなイベントやコラボを企画したいと考えている。

森の中で倒木を使いコンディショニング

今後の目標・メッセージ

 ハイパフォーマンスからライフパフォーマンスへ、身体を整える大切さを、より多くの人に伝える活動を積極的に展開していく。誰もがコンディショニングによって身体を整えられるようになり、痛みなく思い通りに体を動かせるようになれば、自分のやりたいことを、やりたい時にできるようになって行動範囲が広がり、人生が豊かになる。コンディショニングを人々の暮らしの中に染み込ませていくことで、スポーツを通した新たな地域貢献を創造していきたい。

 また、将来的に学校の体育の授業にコンディショニングを導入することを目指している。子どもの頃に正しい身体の使い方を身につけ、不調を感じた時も自分自身で自分の体を改善できるノウハウを持っていれば、それは子どもにとって一生使えるものになるからだ。

 山形ゆかりのアスリートに声をかけ、これまでアスリート会議を2回開いている。参加者と意見交換する中で、スポーツと出合う機会が少なくなってきているという課題が浮き彫りになってきた。アスリートの力を地域の力にしていくためにも、幅広い年代の人がスポーツに出会い、親しむ機会をつくっていけたらと考えている。

 全国的に学校部活動改革が起こっているが、中学校の運動部活動だけを考えるのではなく、これからの地域スポーツ全体をどうしていきたいのかというビジョンを考えることが大切だと思っている。その中で、自分にできることは何かを考えている。

 「ヤマガタアスリートラボ」はスタートしてまだ日が浅いが、アスリートの経験を生かし、さまざまな活動を通して、スポーツの「感動と勇気と希望」だけではない価値とは何かを考え、新たなアスリートの価値を山形で見出していきたい。

東京2020オリンピック・パラリンピック
フラッグツアー・山形(2017年)
東京2020オリンピック聖火リレー・山形(2021年)

(令和6年7月取材)