プロフィール
東北芸術工科大学(以下:芸工大)美術科洋画コース卒業後、同大学の修士課程、芸術文化専攻こども芸術教育研究領域を修了する。
現在は芸工大で教える傍ら、県内外の公民館や美術館などで、子どもも大人も気軽に参加できるアートワークショップを開催。年齢や立場を超えた人たちが集い、「教える/教わる」が双方向に行われる関係性を生み出すことをコンセプトに活動している。
中山町出身。
チャレンジのきっかけ
芸工大に入ったのは、元々絵を描くことが好きだったからだ。小さい頃から人と関わるのがあまり得意なほうではなく、ひたすら好きな絵を描いていることが多かった。高校生になり、卒業後の進路として美術大学を目指すことにした。進学校だったがセンター試験を受けないという選択をすると、その理由を問われた。その時に、なぜ学力だけが重視されるのか、学びたいことを学ぶとはなんなのかを考えるようになった。そして「他の人と違ってはいけない、目立ってはいけない」という考え方に疑問を持つようになる。
高校を卒業後は芸工大に進学した。在学中に教育社会学の先生が主宰するサークル活動に参加し、天童市田麦野地区や大江町など各地域で子どもたちや地域の方々と関わり、ワークショップを行ったことが今の活動の原点になった。
チャレンジの道のり
大学院卒業後も「ものづくりや表現を通して他者と関わることで生まれる気づきや、自分自身が変わっていく面白さを伝えたい」と、地域でのアート活動を続けてきた。ワークショップは表現活動の一つだ。ともすると、「表現」は“別に無くても良いもの”と思われがちだが、子どもにとっても大人にとっても、また性別の違いや障がいの有る無しに関わらず、表現することは自分の存在意義を認めてもらう手段となる。だからこそ、多くの人に活動を知ってもらうことが大事だと思っている。
しかし、なかなか伝えきれていないというジレンマもあった。それは今も同じで、「趣味の活動でしょう?」と生きることそのものとは切り離したように捉えられることが多い。熱意を持って活動していることと、気軽に参加してもらえる雰囲気を大事にしていきたいという思いとのバランスを考えながら、実践の中で向き合っていかなければならないと感じている。
現在の活動内容
世界とつながることができるグローバルな時代に、異なる考えの人と共に社会を構築し協働するため、個々の違いを受け止める「やわらかな対話」としてアートワークショップを捉え、活動している。3つのアートワークショップについて内容を紹介する。
➀「はじまりのたいよう」
参加者が選んださまざまな素材を組み合わせて、それぞれがイメージする「たいよう」を制作していくワークショップ。
コロナ禍や戦争など世界で起きているマイナスな出来事に下を向いてしまいがちな世の中で、一人ひとりの存在をもっと大切に思ってほしいという考えからプランニングした。
子ども、大人関係なく、個々の創造力と発想力で思い思いに「たいよう」を表現していく。得意なこと、環境などの違いが個性としてあらわれ、その個性を共有し合える空間を大切にしている。「同じものを見ていても、人によって捉え方が違う」ことを理解し、その違いを楽しいと感じてほしい。
➁「天童アートロードプロジェクト」
アートを通して年齢も立場も考え方も異なる人たちが出会い、交流する場として2012年から続けているアートロードプロジェクト。
開催に至る間接的なきっかけは、自分が学生だった時に所属していたサークルでの活動だ。廃校となった田麦野小学校を拠点に、アートを通し、学生たちと地域の人たちとの交流が始まった。地域の人にとっては若い人たちとふれあう中で、これまで見えていなかった地域の魅力に気づく機会となり、学生にとっては日常の暮らしを大事にしている人々の様子を目の当たりにし、地方に住むことの良さを感じる契機となった。卒業後も地域に関わる活動を続けていきたいというメンバーたちの思いから、天童市美術館の協力のもと、卒業生が中心となって市民とともに「天童アートロードプロジェクト」を始めた。
➂「世界のまじわりとひろがり展」(第一部「見える世界×見えない世界のまじわり」)
2年前から、山形県立山形盲学校の児童の皆さんと芸工大の学生がアートを通した活動で交流を行なっている。今年は、その取り組みをたくさんの方に見ていただくため展覧会を開催した。会場となった「ぎゃらりーら・ら・ら」から着想を得て「ら・ら・らな世界を広げよう」をテーマとして、山形県立山形盲学校の生徒と芸工大の学生がペアとなり、アートという手法で交流しながら空間を表現していった。作品のイメージを共有しながら素材を選び、手で触れて想像しながら、壁一面をキャンパスにその思いを形にする。意欲を持って取り組む子どもたちの熱量の高さにはいつも驚かされる。
既成概念を壊していくアートは不安定なもので、その感覚を面白がることも大事だと思っている。常に心に持ち続けているのは、“私とは違う”と線を引くのではなく、“みんなが違う”ことを楽しんでほしいということだ。ワークショップが個々の存在を肯定できる場になるよう、その機会を多くつくっていきたい。
また大学では、教員として、企画、デザイン、広報などトータルに取り組むことができるアートプログラムコーディネーターの育成もおこなう。指導する立場から、アートを学ぶ人たちが社会のさまざまな現場で活躍してもらうことを願っている。アートワークショップはその実践の場でもある。
今後の目標・メッセージ
アートは作品を作るのが得意な人だけのものではなく、他者を深く理解することができるコミュニケーションツールでもある。もっと広く表現することの大切さを知ってもらい、アートを通して多くの人との出会いを楽しんでほしい。