写真家・tomophoto(トモフォト)代表
サトウトモミ さん
チャレンジ分野:

プロフィール

1967年、山形市生まれ、在住。本名・佐藤友美

山形北高を卒業し、東北学院大学に進学。大学在学中から広告代理店の河川事業のPR業務に携わる。

1988年 山形市内の広告代理店に入社

1992年 結婚を機に退社

2003年 コピーライター活動を開始(web・チラシ・雑誌などの取材・執筆・撮影)

2010年 広告代理店に再入社。撮影業務を手がける

2014年 自身の病気、家族の介護のため退社

2015年 フォトグラファー活動を開始(成人式前撮り・スクールフォト・旅サイトの撮影)

2018年 「tomophoto(トモフォト)」を設立(個人事業)

2024年 山形市文翔館にて「働く女性の写真展」を開催

チャレンジのきっかけ

 大学時代に、山形市内の広告代理店が担当していた河川事業の広報活動に携わった。ラジオ番組で河川事業の必要性や河川愛護についてわかりやすくPRする業務で、取材をして文章を書いたり、写真を撮る仕事もあり、取材の楽しさを知った。

 大学を卒業するとそのまま広告代理店に入社し、4年間勤めた後、結婚を機に退社した。3人の男の子を出産し、子育ての時期が続いた。10年以上仕事を離れていたが、長男が小学5年、次男が小学1年、一番下の子が幼稚園の年中になった時、ホームページ制作会社で派遣社員として働き始めた。コピーライターとして文章を書くかたわら、写真撮影を手がけることもあった。

 その後、広告代理店に再入社し、今度はフォトグラファーの仕事をすることになった。映画やドラマ、CM、紀行番組などのロケーション撮影を山形に誘致するため、山形ならではの風景や名物、グルメなど、村山地方で年間3,000か所を撮影する仕事だった。他にも社内のスタジオで先輩フォトグラファーのアシスタントとして、人物や商品、農産物などのポスターやパンフレット用の写真撮影を手伝った。だんだん写真がおもしろくなり、もっとカメラのことが知りたいと思うようになって、少しずつ自分でカメラやレンズなど機材を揃えるようになった。

 ところがその矢先、病気で入院することになってしまった。ようやく回復して退院すると、今度は2か月後に父が脳梗塞で倒れてしまった。父が施設に入所して介護が楽になったにもかかわらず、どうしても思うような仕事ができない自分に耐えられなくなり、仕事を続けるのが苦しくなって退社した。

スタジオで商品撮影

チャレンジの道のり

 会社を辞め、1年ほど経って家庭の状況が落ち着くと、やはり写真の仕事がしたいと思った。社会とつながっていたい、いろいろな人と関わっていたいという思いが強く、知人に紹介されていくつかの写真館で撮影を手伝うようになった。

 写真館の仕事では、成人式の前撮り、小学校や幼稚園の行事を撮るスクールフォト、結婚式などを撮影した。今になって、この時にタイプの違う撮影ができたことが大きな財産になったと思う。さまざまな写真を撮るうちに、ただ撮影して終わりではなく、撮った写真を商品として完成させて、直接お客様にお渡しするところまでやりたいと思うようになった。ちょうどその頃、宮城県でお店を持たずにスクールフォトをメインに撮影しているフォトグラファーと出会い、仕事の合間に1年間、その方のところに通って、いろいろ勉強させてもらった。

 フォトグラファーとして写真館の仕事をして3年が経ち、子育てが一段落したこともあって、2018年に起業して「tomophoto」を立ち上げた。「心をこめて愛のある写真を」をモットーに、撮影からお届けまで、お客様に向き合う小さな写真屋だ。

 自分1人なので手広くやろうという考えはなく、たとえば卒業式など同じ時期に行事が重なるスクールフォトでは、撮影を担当するのは幼稚園は1つ、小学校は1校というように決め、自分がやれる範囲で丁寧な仕事をしようと考えていた。

 ただ当時は、女性で、しかも個人事業でやっているフォトグラファーはまだ珍しかったので、1年目は「頼んで大丈夫なのか」と不安に思われるお客様もいると感じていた。だからこそ、途中で投げ出すようなことは絶対にしないという思いで仕事に向き合い、徐々に信頼して仕事を任せてもらえるようになった。信頼を得るには時間がかかるが、失うのは一瞬のこと。誠実さと一生懸命さしかないと踏ん張ってきた。

現在の活動内容

 「tomophoto」を設立した頃、ある方に「自分だけのテーマを決めて写真を撮影したほうがいい」とアドバイスされた。その時、すぐに「働く女性の姿を撮ろう」と決めた。自分は3人の子どもの子育て中も、父の介護をしている時も、できる限り仕事を続けたいと思い頑張ってきた。家のことと仕事の両立は大変で葛藤もあったが、家庭とはまた違う社会や、人とのつながりを大切にしたいという気持ちもあった。そんな思いがベースにあったから「働く女性」を撮りたいと思った。

 当時と時代は変わっても、自分と同じようなことを思っている女性がきっといる。さまざまな苦労や葛藤を抱えながらも、自分の城、働く場、居場所に来ると気持ちを切り替えて、そこで明るく一生懸命に自分の仕事や活動に打ち込んでいる女性たちがいる。いろいろなことを乗り越えたところにある、そうした働く女性の強さ、美しさ、プライドなどを撮りたいと思ったのだ。「働く」といっても、いわゆる仕事中、業務中だけではなく、「これが私のやりたいこと!」と、何かに一生懸命打ち込んでいる姿にカメラを向けたいと思った。

 こうして「tomophoto」のスタートとともに、ライフワークとして「働く女性」の写真に取り組むようになった。最初は、普段お世話になっている方や尊敬している方、素敵だなと思っている方たちにモデルをお願いした。いつもはお客様からの依頼で写真を撮るので、自分のほうからお願いするのは初めての経験だった。「モデル料も払えないし、何かに使うわけではないが、ライフワークで働く女性の姿を撮影しているので、撮らせてください」と思い切って伝えると、快く協力してくれた。モデルになってくれた方が、「ぜひ、この人も」と紹介してくれることもあり、1日に何人も撮影したこともあった。

 写真は、その方の仕事場や活動している場で撮るので、邪魔にならないよう、行ってすぐに時間をかけずに撮影しなければならない。そうした日常の場だからこその姿、自然体で自信に溢れた表情を撮らせてもらえたと思う。

 「働く女性」の撮影を続けていくと、モデルの方は10代から70代と年代も広がり、調理師、学校の先生、幼稚園の園長先生、美容師、神主、女優、経営者、農家、NPOの代表など、さまざまな職種の人たちの写真を撮らせてもらうことができた。最初は作品展を開こうという気持ちはなかったが、どんどん素敵な人たちに出会ううちに、「主役は写真に写っている方たち。この輝いている姿を見てほしい」という思いが募った。

 そして令和6年8月、山形市の文翔館で初めての写真展「働く女性の写真展~その輝きを心の目にやきつけて」を開いた。5年間で撮りためた約50人の写真60点ほどを、A2サイズのパネル写真にして展示した。モデルを引き受けてくれた方が、まず1人で見に来られて、次に家族と来て、また友だちと一緒に来て、パネル写真の前で記念に写真を撮ったりしてとても喜んでくれた。新聞で紹介されたこともあって、知らない方も大勢見に来てくれて、何度も会場に足を運んでくれた方もいた。写真展の案内チラシを町内の回覧板で回してくれて、ご近所の方も来てくれたりと思いがけないこともあった。写真を見た方から「元気をもらいました」と感想をいただいたが、それは、写真の中の女性一人ひとりが自分の居場所でいきいきと輝いている、その姿が見る人の心をとらえたのだと思う。

 写真展の会期中の1週間は、ずっと会場にいて、来場してくれた方とおしゃべりをし、ギャラリートークでは自分の思いなどを話した。初めて会う人も少なくなかったが、とても心の温まる時間だった。

今年8月に開催した「働く
女性の写真展」のポスター
「働く女性」の写真撮影の現場
「働く女性の写真展」の会場風景

 

 写真展の準備を進めている頃、東京で音楽活動をしている高校の同級生だった友人から、「SNSを見て、写真を撮っていると知った」と久しぶりに連絡があった。「長いことあたためてきた思いを曲にしたので、歌ってYouTubeで配信したい。その背景に山形の風景を入れたいので、写真と動画を撮ってくれないか」ということだったので、いつも自分が撮っているような花や自然の写真と動画を撮って送った。

 その動画の配信がちょうど作品展の期間中に始まったので、ギャラリートークではその音楽と映像を流しながら話をした。写真が縁で友人とつながり、役に立てたことがうれしかった。

「働く女性の写真展」のギャラリートーク
「働く女性の写真展」の会場風景

今後の目標・メッセージ

 写真展でいろいろな人と話す機会があり、おしゃべりしたりお茶を飲んだりできるサロンのような居場所がほしいという思いが芽生えた。写真館というと、どうしても敷居が高くなるので、ふらっと気軽に立ち寄れるような写真館、みんなが集えるような場を、月に一度くらいのペースで作りたいと思った。

 そこで、まず11月から山形市のQ1の会場を借りて、誰でも自由に出入りできる「月イチ写真館」を開いた。その「月イチ写真館」の中で1時間ほど、写真教室も始めた。今後も「働く女性」の写真を見てもらったり、家族や友だちと写真を撮ったり、お茶を飲んだりお菓子を食べたりしながら、ゆったりと過ごしてもらえる交流の場にしたい。

 また、今回の写真展は山形市で開催し、一度だけのつもりだったが、今後は別の地域でも開きたいと思って準備しているところだ。その土地の「働く女性」も撮らせてもらって、多くの人に輝いている姿を見てほしいと思っている。

今年11月からスタートした「月イチ写真館」
「働く女性」の写真撮影の
現場

(令和6年11月取材)