プロフィール
1977年山形市生まれ、在住。
新潟大学医療技術短期大学部を卒業後、山形県内の県立病院で1年間、看護師として勤務。
その後、山形県立保健医療短期大学に編入。
山形市役所に入職。11年間保健師として子育て支援、児童虐待対応業務に従事。
2012年、母親の死をきっかけに、自分の「生き方」を探究したいという想いから公務員を退職。
「MOTHER design」(マザーデザイン)を起業。
2017年、「生きるを楽しむ」をテーマに、一人ひとりの“生きる”に深く関わっていきたいと
「生き方コンサルタント」として相談事業・講師業をスタート。
【資格】看護師、保健師、公認心理師、上級心理カウンセラー
山形県事業「学生向けライフデザインセミナー」講師
山形県スクールカウンセラー
チャレンジのきっかけ
市役所保健師として働く中で、大きな転機となったのは、母の死だった。突然の病で余命宣告をされた母を前にし、何もできない自分に苦しんだ。死にゆく母と生きている自分を対比する中で、「生と死」について考える日々が続いた。その中で、自分が生きてきた時間の多くが親の意思に従ってきたものだったことに気づき、愕然とする。子どもの幸せを願い、安定した仕事に就かせることをゴールとした両親と、その道だけを歩き、生きてきた自分。母の死と向き合った時、たった一本だと思っていた道が消え、同時に、頭の上にあった重石が落ちるように、何かがパカっと開いたような感覚になった。「私は今まで何を気にしながら生きてきたんだ?どう生きるかは自分で決めていいのかもしれない。いや、決めて生きることが自分の人生になるのだ」。目に見えない縛りが解かれたように、急に周りの景色がパッと明るく見えた。生きる道は自分で決めていい。清々しい風が吹いたように、心が軽くなった。今でもその瞬間が鮮明に蘇るほど、とても印象的な一瞬だった。
幼少の頃から「生きるって何だろう?」という問いを抱えながら、「生きる意味」を探していた。ある時、「生きてるってスゴイ」という言葉に出会い、「いま生きている自分」を受け入れたら、エネルギーが湧いた。
そうしたいくつかのきっかけを経て、市役所保健師としての仕事の枠を超えて「人の“生きる”に関わっていきたい」という想いが溢れ、退職して自分の人生を始めるチャレンジを始めた。
チャレンジの道のり
「子育てが苦しくなるのはなぜか」ー保健師時代、産後うつの研究に携わり、母になる女性が抱く悩みや葛藤と向き合った。自分自身も長男を出産し、産後に感じた孤独感や不安をノートに書き留めながら、他自治体や世界の子育て支援の形を調べた。
その中で出会ったのが、東京都世田谷区での子育て支援の取り組みだった。今は当たり前になった「ママコミュニティ」の先駆けのような形で、そこに何かヒントがあるような気がして、東京に出向き参加させてもらった。そこでは「母である私」ではなく、「私の人生」にフォーカスが当てられた。母になったから何かを諦めるのではなく、どうしたら子育てをしながらやりたいことを叶えていけるか?子育てを理由にして夢を諦めてしまうことは、親も子も幸せを感じられない。必要なのは人とのつながりで、コミュニティの中で「お互いの“得意”を活かし、サポートし合おう」というメッセージが心に残った。
保健師として家庭訪問をしながら、さまざまな“得意”を持っている母親に出会っていた。お菓子作りが得意、裁縫が得意など、暮らしに豊かさを感じられたり、ちょっとした楽しみを作れるようなことで、プロではないけれど、「教えてほしい」と言いたくなるような人がたくさんいた。「母」としての自分だけではなく「自分らしさ」が出せる場所があれば、人とのつながりをもっと感じられるようになるかもしれない。わざわざ子育て相談に出向かなくても、コミュニティのおしゃべりの中で解決する悩みもたくさんあるような気がする。そんなイメージが広がり、ノートに書き込んだ。
その時に書いたA4一枚の紙が、チャレンジの計画書となった。「ママになっても、すべての女性が自分らしく生きられる場所をつくる」というビジョンを描き、“生き方をデザインする”という意味を込めて、「MOTHER +(プラス)」(現「MOTHER design」)を立ち上げた。
また在職中に、いのちの誕生について伝えたいと民間資格を取得、山形県看護協会の「出前授業」講師派遣事業の講師登録をして、県内の小・中・高校へ出向き命の大切さや性教育をテーマとした講話も始めていた。退職後も依頼があり、講師としての仕事につながった。
ある時、引きこもりをテーマにした本の作家のトークイベントでのインタビュアーを頼まれたことがあった。その会場で話を聞いていた大学の先生が、自分の経歴に興味を持ってくれて、イベント後に声をかけてくださった。安定志向の学生たちに「生き方」をテーマに授業をしてほしいとの依頼をいただき、大学生に向けて「どう生きたいか?」を問いかけるオリジナルの授業をさせてもらった。それが、現在の「生き方の授業」の原型になっている。
その後、学習指導要領の改訂に伴い「生きる力」が明記され、学校でもキャリア教育が取り入れられるようになった。それまでは「命の大切さ」が中心だった出前授業でも、自分が伝えようとしていた「生き方を考える」という切り口が学校のニーズと重なり、「生き方の授業」の依頼が増えていった。
生き方の多様性や心を育む教育に興味がわき、インドネシア・バリ島にある世界最大のエコスクール「グリーンスクール」や、フィンランドの小・中・高校・大学を訪れるスタディツアーに参加した。その中でも印象に残っているのは、フィンランドを訪れた際に、初めて出会う人たちに「あなたの幸せは何?」と何度も問いかけられたことだ。幸せの価値観は人それぞれだからこそ、お互いが大切にしていることを知って、尊重し合う文化があることを知った。そして「何に幸せを感じるのか?」、この問いを自分に投げかけることこそ、自分を知るための大きな鍵になるのではないかと感じた。
現在の活動内容
年間を通して、山形県内の小・中・高校への出前授業「生き方の授業」をしている。「やりたいことがない、自分に自信がない、周囲の評価がすごく気になる、将来に不安を感じている」といった子どもたちに、自己対話のきっかけをつくっている。
生徒からの感想には、「悩んでいた気持ちがすごく軽くなった気がします。今日からは後悔しないように生きていきたいと思いました」「すごく進路が考えやすくなりました」「講話を聞いて、自分がしたいことを見つけた時からが人生の始まりなんだなと思いました」「話を聞いて、将来が楽しみになった」など、内的発見が綴られており、自分自身もエネルギーをもらっている。
子どもたちの前で話をする時、一番難しいと感じるのは、言葉以上に「私」という人間が見透かされてしまうことだ。上辺だけの言葉では子どもたちには何も伝わらない。いま自分がどういう在り方をしているか、そこを見られていると感じている。だからこそ、自分自身が「どう生きたいのか」を問い続け、見つめながら生きることを大切にしている。
今年の4月からは、山形県のスクールカウンセラーとしての勤務もスタートした。定期的に学校に行き、子どもたちや保護者、先生方からの相談を受け、悩みを聞き、心のケアや心理教育をする仕事だ。現在は、県内2か所の中学校を担当している。子育てや教育についての情報が溢れ、「子どもたちにどう関わればいいのかわからない」という親御さんや先生の声を多く聞く。その悩みの一助となるべく、これまで学校で出前授業をしてきた経験を活かし、「子どもとともに“生きる”を楽しむ」をテーマにした保護者や教職員向けの講演もしている。
最近は企業からの研修依頼も増えている。「いまの若い人たちは、報酬だけではなく、働く意味や喜びが見出せないと簡単に転職してしまう」という悩みが寄せられる。世代間のコミュニケーションに課題があるという企業も多い。そうした企業向けの研修として、働き方と生き方の関連性に着目した研修、社員の人生観を育むための「ライフデザイン」を描く研修など、新入社員から管理職まで幅広い年齢層を対象にした、ワークショップを交えた研修をおこなっている。
個別セッションとなる生き方コンサルティングは、オンラインで全国から依頼を受けている。20代の若者から60代以上のさまざまな世代がブログや口コミを通してセッションを知り、自分と向き合っている。人生を変えたいけれど、変えられない。どうしたら良いのかわからないと悩んでいた人たちに伴走し、数か月後にとても明るい笑顔になり、自分の楽しみや働き方を見つけていく姿を見るたびに、すべての人が持っている可能性を感じている。
今後の目標・メッセージ
「生き方」に関わり、人と向き合いながら、この社会で一緒に生きている人たちの役に立てる仕事をずっと死ぬまで続けていきたい。保健師時代を含め、「生き方」や「いのち」をテーマに出前授業をした学校は、県内外で延べ100校を超えた。その中で、子どもたちの声を聞いてきたアンケートデータが数千件ある。その貴重な回答の蓄積を何らかの形で活かし、社会に還元するのがいまの課題だ。
自分の生き方を変えることで気づけたことや起業する道のりで受け取ってきたことを、次の人たちにつないでいきたい。
「生きる」という時間を通して、何に気づき、どう生きていくのか。生き方に良し悪しはなく、深く考える必要もないのかもしれない。ただ、生きづらさを感じたり、苦しい気持ちになった時は、生き方を変えるチャンスなのだと思う。偶然の出会いや想像もしなかった流れの中に、いつも「変化の鍵」がある。だからこそ、自分の仕事を通して、これからも一人ひとりに向き合い、共に問いかけ合いながら、一緒に「生きる」を楽しんでいきたい。