やさいの荘の家庭料理 菜ぁ店主
小野寺美佐子さん
チャレンジ分野:

プロフィール

昭和61年ごろ~ 会員制野菜宅配「たべものを考える野菜の会」をスタート

平成12年 「農家の宿 母家(おもや)」オープン

平成16年 鶴岡市内で「やさいの荘の家庭料理 菜ぁ(なぁ)」オープン

平成17年 毎日新聞社/毎日農業記録賞 優秀賞受賞

平成20年 現在地に移転オープン

チャレンジのきっかけ

「やさいの荘の家庭料理 菜ぁ」の暖簾をくぐると、優しい笑顔が出迎えてくれる。小野寺美佐子さんだ。同店は、小野寺さんのご主人とともに丹誠込めて育て上げた無農薬野菜をふんだんに使った料理が楽しめる農家レストランだ。
8年ほど前、農林水産省が提唱した「グリーン・ツーリズム」の農林漁業体験民宿に登録、築100年を超す自宅を改造し「農家の宿 母家」を開業した。ゆったりとした空間で、敷地内で採れた野菜を堪能した宿泊客はみな、本当の野菜の味、そのおいしさに感動したという。 こだわって作った安全で新鮮な自慢の野菜。もっと多くの人に食べてもらいたい、野菜のおいしさを知ってもらいたいという思いが小野寺さんの心の中に常にあったという。「もっとも私自身料理が好きということもあって、じゃあレストランを始めてみようということになったんです」。

チャレンジの道のり

5人の子どもの母となった小野寺さんは、丈夫な子どもに育てようと休耕地を利用して安全な野菜を育て鰹節や煮干などの自然調味料を使った料理を食べさせていた。 そんなある日、ある噂話を耳にする。 『売り物には農薬をいっぱい使うくせに、自分たちが食べるものには農薬を使わない。農家の人たちは、ずるい…』
根も葉もない風評だが、真摯に野菜作りに取り組む小野寺さんにとってとてもショックだった。「それならば、私が食べている野菜をみなさんにも食べてもらおう。そう思って野菜の宅配事業を始めたんです」。会員制野菜宅配「たべものを考える野菜の会」は評判となり、一時は関東方面に発送するまでになったという。
今のはつらつとした明るい笑顔からは想像がつかないが、以前の小野寺さんは身体が弱かったという。子ども達の為に丈夫になりたいとの強い思いから、より安全な農作物を作り安心して食べられる食べ物作りに励んだ。そのうちに小野寺さんはみるみる健康になっていった。
最近の食品表示偽装や食品からの農薬検出のニュースを目にするたび、「“人が口にするもの”だということを、みんな忘れているんじゃないかしらと思う時があります」と小野寺さん。体内に入る食べ物は、信用が一番。菜ぁでは、食材の基本は自家製のものを、また自家製で間に合わないものについては知り合いの農家から取り寄せて、出どころのはっきりわかるものだけを使用している。そして、もちろん料理には決して添加物や化学調味料は使わない。そんな菜ぁの料理は、日頃食の安全を気にしている人々の心をつかみ、あっという間に人気が出た。
当初、菜ぁは母家から10分ほど離れた場所で営業していた。「宿泊されたお客様も、食事の時に菜ぁまで移動していただかなければならなかったし、何より2カ所を行き来していた私自身が大変でした。料理が好きで楽しく始めたはずなのに、目の前のことをこなすことに精一杯で、気付くと体と心がバラバラな感じになってしまって」。
じっくり料理と向き合いたい…。平成20年4月、菜ぁを移転し母家と同じ場所で再スタートを切った。

「よく育ったね」と野菜に語りかけながら世
庄内名物だだちゃ豆も、ご主人が丹精こめて育てたもの。調理中に野菜が足りなくなると同じ敷地内の畑に取りに行くこともあるという。

現在の活動内容

現在は、菜ぁと母家の経営と、米・野菜作りに専念している小野寺さん。温かい雰囲気の日本家屋でいただく素材の味を生かした料理で、菜ぁは着実にファンを増やしている。
「遠方からいらっしゃる方が、よく『実家に帰ってきたみたい』とおっしゃるんです。ここは、みなさんが頭の中に描く“田舎”のイメージに似ているのかもしれませんね」と小野寺さん。中には同級会で利用する人たちもいるそうだ。黒光りする柱や梁、畳の香り、開放された窓から望む雄大な自然、昔を懐かしむのにぴったりの空間だ。
「移転する時、目立つように大きな看板を立てるという話もありました。でも、ここで生活を営む者としてあるがままの姿でいたい、手広く商売するのではなく、身の丈に合ったことをしたいと思って看板は控えめにしました」。小野寺さんの思いはそのまま訪れる人々にも伝わり、等身大の自分でおだやかな時間を過ごすことができるのだ。
作りすぎず、あくまで自然に。常に心身を健やかにする料理と心休まる場の提供を心がけている。

 

今後の目標・メッセージ

「ふと、私自身が昔ながらの伝統料理を継承していないな、と思うことがあるんです」。脈々と受け継がれてきた数々の郷土料理を年配の方に習おうにも、その方自身が長年作っていないため忘れていることも多いという。「どんな食材にも、その土地の人が知るおいしい食べ方がある。山の人が持っている知識と海の人が持っている知識を聞いて勉強して、この土地の郷土料理を次の世代に伝えていけたらと思います」。
伝えるためには、まず自分が体得していなければならない。その季節になったら自然と身体が動くよう、何度も何度も作り、舌と身体で覚えこむ。「料理はなかなかおもしろいですね」。本物のおいしさを求める小野寺さんの料理研究は、これからも続く。

(平成20年7月取材)