プロフィール
昭和62年 ボランティアサークル「あらた」を結成
昭和63年 車いす用福祉マップの制作を開始(以降毎年更新)
平成 9年 「民間介護の家たくせい」発足
平成11年 「特定非営利活動法人あらた」設立
平成12年 介護保険事業と心身障がい者小規模作業所の運営を開始
「民間介護の家たくせい」にて認知症対応型共同生活介護のグループホームと、通所介護によるデイサービス、心身障がい者小規模作業所「たくせい」、たすけあい事業を運営
平成15年 グループホーム「民間介護の家ひより」を開設 精神障がい者グループホーム「たかさご寮」を開設(現・障がい者グループホーム・ケアホームたかさご寮)
知的障がい者デイサービス「民間介護の家たくせい」を開設
平成16年 認知症予防教室(認知症疑似体験)開始
平成17年 居宅支援事業所「ケアステーションあらた」、訪問介護事業所「ケアステーションあらた(現・ヘルパーステーションあらた)」を開設
平成18年 障がい児タイムケア事業「そよ風クラブ」開設(現・児童デイサービス「そよ風クラブ」)
平成19年 法律改正により、小規模作業所・知的障がい者デイサービスが「障がい者サポートセンターあらた」となる。
未来創造館竣工
「デイサービスあらた」開設 グループホームに「共用型認知症対応型通所介護」「短期利用共同生活介護」開始 「レストラン未来創造館」開始
「山新愛の鳩賞」、「毎日介護賞」、「山形県福祉のまちづくり支援活動の部」優秀賞、「酒田市福祉協議会会長賞」など
チャレンジのきっかけ
児童学の研究者であり、短大で教鞭をとってきた齋藤緑さん。昭和55年に酒田市に転居、生活を始めてふとあることに気付いた。「街の中を歩いていて、障がい者をまったくみかけないんです。みんな人目を避けるように家や施設に閉じこもったきり。酒田には障がい者が出て歩ける場所がなかったんです」。ほかの人なら気にも留めないかもしれない、研究を通して障がい児らとふれあってきた齋藤さんだからこそ気付いた街の異変だった。「幼児教育では障がい児はそれ以外の子らとはクラスを別にしますが、先生側にその技術と知識さえあれば分ける必要がないんです。街も同じ。街側に受け入れる体制ができていれば、障がい者だって健常者と同じように街を出歩けるはずなんです」。
ある日、ご主人から「子育てしながら教鞭をとって、人生このままでいいの?したいことはないの?」と言われてハッとしたという。「街づくりをしたい。障がいのある人・ない人が平等に暮らせる街をつくりたいって思ったんです」。酒田市をみんなで暮らせる街にしたい…。齋藤さんは、早速行動を起こした。有志約10人とともに「ボランティアサークル あらた」を発足。まずは「福祉マップ」の制作にとりかかった。福祉マップというわかりやすい形にすることでみんなの注目を集められれば、本来の活動目的を広めやすくなるという考えからだった。県内の公共施設を中心に、車いす用駐車場やバリアフリートイレの有無、通路の幅や出入り口の段差などを実際に見て回り、地図にまとめた。調査にはあらたのメンバーのほか、その土地をよく知る地域住民も参加。車いすの人や妊婦も加わり、障がい者目線でチェックしていった。
福祉マップづくりの基本理念は、前向きに考えるということ。「例えば、ある建物において表玄関には階段しかないけれども裏口にはきちんとスロープがあるとします。この場合『この建物はスロープのある良い建物』と評価します。ほかにも、犬がいる店については、犬が吠えて怖いではなく『いざという時に犬が吠えて人を呼んでくれる良い店』と考えるんです」。できることを認め、前向きに捉える。すると、暮らしにくかった街がだんだんと暮らせる街に見えてくる。その上でさらに改善を加えれば、もっと暮らしやすい街に変わっていくのだ。
当時はまだ「バリアフリー」という言葉が一般的ではなかった頃。齋藤さんは、押しつけの福祉ではなく、みんなが平等になるための街づくり、本当の意味での福祉に、すでに20年以上前から取り組んできた。
チャレンジの道のり
福祉マップの調査をしていて、齋藤さんはある経験をする。「その時ちょうど私自身が妊娠をしていました。歩き疲れたので、ちょっとだけ車いすに乗せてもらったんです。そうしたら、少し離れたところから『あの人妊婦なのに車いすに乗ってるよ』って陰口をたたく声が聞こえて来たんです。言った本人はまさか聞こえてるとは思ってないようでしたが…。障がい者の方はいつもこんな思いをされていたんだなと、身につまされる思いでした」。
“障がい者”という立場を身をもって経験した齋藤さん。誰もが平等に歩ける街へ、という思いがますます強まっていった。
平成9年「民間介護の家たくせい」の発足を皮切りに、ケアステーションやデイサービス等の介護保険事業、障がい者・障がい児支援事業をスタート。その一方で、ホームヘルパー養成講座(2級)の開催や、映像・音声装置を使っての認知症疑似体験など、受け皿となる一般市民に対する啓蒙活動も始めた。ハードとソフトの両面から、“障がい”という垣根をなくす活動を行っている。
現在の活動内容
障がいのある人もない人も平等に暮らせる街づくりを目指してきた齋藤さん。その集大成ともいえるのが、平成19年に完成した「未来創造館」だ。安心・安全・バリアフリーの設計、24時間サポート。しかし、これはここ数年各地に建設されている高齢者向けマンションとはまったく違う。来客の受付や宅急便の取り次ぎなど、あくまで“フロントサービス付き”の賃貸マンションだ。障がいのある人が暮らしやすいということは、すなわち障がいのない人も暮らしやすいということ。入居者の条件に年齢制限はなく、障がいの有無も問わない。個々の部屋の独立性が高く、それでいて介助が必要な時にはいつでもヘルパーが入る24時間のサポート体制をとる。「障がいのある方も、高齢者も、健常者と同じようにプライドがあります。彼らは必要な時だけ手助けがあれば、あとは障がいのない人と同じように暮らせるのです。一人一人のプライドを尊重し、自分らしくいられる自由度の高い生活空間を…と考えたら、このような形になりました」。
齋藤さんのこだわりが、館内随所に見られる。一般の賃貸マンションと比べると料金もお高めだが、そこには納得の安心と快適さがある。「お年寄りを狙った詐欺におびえていらっしゃった方が、外部からの接触をフロントが遮断し入居者を守るという安心感からか、入居してほどなく対人恐怖症が治って元気になられ、今では一人でお散歩に出られるまでになったんです。環境が与える影響の大きさを目の当たりにした気がしました」。
同館では、就労支援を受けている障がい者が掃除部門、配食部門で働いている。差別のない社会、どの人も対等に生きられる社会。そんな場の居心地の良さを一番わかっているのは入居者自身だ。みんな口々に「住みやすい」と言って笑顔をみせる。
今後の目標・メッセージ
毎年更新を重ねる福祉マップ作り、介護保険関連事業、障がい者支援事業、車いすバスケットボールの支援。福祉分野で幅広く活動する齋藤さんだが、やはり一番根底にあるものは「障がいのある人もない人も、みんなが対等に暮らせる街づくり」だ。「これは特別なことではなく、本来当然の考え方なんですよね。こういう考えがほぼ消えている今の世の中に、少しずつでも広めて行きたい、啓蒙したいと思っています」。人間である限り誰もが人間らしく平等に暮らせる街に近づけるよう、今後も齋藤さんは世間に様々な提案をしていく。