よねざわ昆虫館専門員
島貫 清美さん
チャレンジ分野:

プロフィール

平成20年4月~ よねざわ昆虫館非常勤専門員として勤務 

平成22年4月~ よねざわ昆虫館常勤専門員として勤務

チャレンジのきっかけ

 米沢市在住で一男二女の母である島貫さんは、13年ほど前に子どもの夏休みの自由研究で標本の作り方を学ぶため、よねざわ昆虫館に足を運んだ。子どもと一緒に作業を進めていると、「あなたはとても筋がいい。手伝いに来てくれませんか?」と職員から声をかけられた。もともと絵心もあり工作も好きだった島貫さんは快く引き受け、時間を見つけては足を運ぶようになった。
 「イベントなどの手伝いをするうちに、昆虫の知識が徐々に増えていきました。知識が増えるとさらに興味が湧いてくるもので、それからというもの、家業の農作業を手伝いながら、昆虫を見つけてはフィルムケースに採取して名前などを調べるようになりました。名前がわかるようになると、さらに興味がでてきてすっかり昆虫にはまっていきました。もともと出身が川西町の山あいで、幼少期を自然豊かな環境で育ったこともあるのでしょう。すんなり昆虫の世界に入ることができたように思えます。」

チャレンジの道のり

 「手伝いを始めて3年ほど経ったころ、職員の方が転勤することになり、正式に専門員として勤めてくれないか、と打診がありました。自分がすべてを任されるということは不安でしたが、島貫さんなら大丈夫、という言葉を信じてチャレンジをする決心をしました。」
 よねざわ昆虫館は東北唯一の公設の昆虫館。県内外の昆虫愛好者が集まる拠点となっている。新任したばかりの島貫さんは早速、山形昆虫同好会に入会し、知識豊富なメンバーから様々なことを教わりながら昆虫館の運営にあたり始めた。
 「虫、というと大好きな方よりも苦手な方が多いかもしれません。ですので、昆虫を紹介する際は、イラストなどでかわいらしく紹介し、グロテスクで気持ちが悪いと思われないよう工夫しています。また、文章を極力少なくして、ビジュアル中心の展示にしています。」
 こうして島貫さんのアイディアを活かしながら、昆虫館では年3回の企画展を開いている。最近実施した中で、島貫さん自身も多くの学びがあったのは『虫はごちそう』という企画だ。これは、食用にすることができる昆虫を、実際に調理し食べてみようというもの。昆虫は良質なたんぱく源として、古くから子どものおやつなどに用いられていて、山形県ではイナゴの佃煮などが馴染み深い。この日はイナゴの佃煮の他、ゴマダラカミキリの幼虫の油炒め、食用コオロギの唐揚げなどを用意した。
 「小学生の高学年や大人は、なかなか手が出ませんでしたね。でも幼稚園生など小さい子は、先入観なしで食べてくれました。フライドポテトみたいでおいしい!おかわり!って。その笑顔を見ていると、この企画で私が伝えたかったことが、自然と伝わっているなと嬉しく思いました。きれいな木や草を食べて生きている昆虫は、雑食の昆虫と違って、おいしいんです。それぞれの虫が何を食べているのかを知ることは、万が一食料不足になったときなどにも役立つ知識のひとつになると思いますし、きれいな木や草を食べる昆虫が暮らしやすい、きれいな自然を守っていこうという意識が生まれればいいな、という想いが強くなりました。」

現在の活動内容

 よねざわ昆虫館は毎年、県内外から2万人前後の来館者がある。特に夏休みがピークで、多くは福島や宮城、関東地方が中心だが、九州・沖縄・北海道からも訪れている。島貫さんの主な仕事は企画展やワークショップの準備・運営だ。
 これまでの主な企画展やワークショップの例を挙げると、養蜂家の協力を得て行ったミツロウのハンドクリーム作り、大河ドラマ『天地人』にちなんだ展示(“天”は空を飛ぶ虫、“地”は地中にいる虫、“人”は戦国武将の甲冑の前たてが昆虫をモチーフにしているものをそれぞれ紹介した)、また、アクセサリーや着物の図柄としても多く使われている蝶 をテーマに、刺繍作家とコラボレーションして作品を展示するなど、虫と人の関わりをわかりやすく学ぶことができる内容が多く、島貫さんの自由な発想が光っている。中でも話題になったのは、2013年に誕生したオリジナルキャラクターの『昆虫宣隊ヒョウホンジャー』だ。

 「ヒョウホンジャーは、愛好家の自慢の標本を展示する企画展をきっかけに誕生しました。企画展にはとても素晴らしい標本が並んだのですが、残念ながら子どもにとっては少し難しかったのか、来館者数が伸び悩んだということがあったのです。翌年、再度実施するにあたって、標本をわかりやすく紹介するキャラクターを登場させよう、と発案したのです。それが昆虫宣隊ヒョウホンジャーでした。チラシで『ヒョウホンジャーが紹介するよ』とPRし、ヒョウホンジャーのイラストをパネルにして標本の紹介をわかりやすくしたことで、来館者は前年の倍に上りました。このことから、企画展は内容ももちろんですが、見せ方も重要なのだということを強く感じました。翌年はヒョウホンジャーの被り物も作りました。皆さん自由に被って写真を撮っていらっしゃる姿を見ると、がんばってよかったな、と嬉しい気持ちでいっぱいになります。」

※夏休みのワークショップ
※カブトムシ相撲大会
※絵が得意な島貫さん。自身でイラストを描き、わかりやすく伝えている。カブトムシ相撲大会
※ヒョウホンジャーの被り物。こちらも島貫さんの手作り。

 
※ヒョウホンジャーのキャラクターは6つ。カブトムシやオオクワガタなどがモデルだ。

今後の目標・メッセージ

 「最近、山形県からの依頼を受け、農業用水地の環境アセスメントの仕事を行っています。これは、どのような虫がその場所に生息しているのかを調査するというものなのですが、打診があったときは、本当に驚きました。そのような専門的な調査は私に務まるのだろうかと不安でしたが、いつも助けてくださる愛好家の皆さんを頼りに、挑戦することを決意しました。日々知識の向上、レベルアップを図っているところです。」
 『島貫先生』と来館者から慕われている島貫さん。昆虫の世界に足を踏み入れたのは35歳を過ぎたころだったが、興味があることはいくつになっても覚えることができる、年齢は関係ない、と身を持って感じている。

 「自分が実際に見て体感したことは、驚きや感動と共に記憶にしっかりと定着します。私自身がそのように学びを深めたように、多くの方に昆虫の楽しさを伝えていきたいと思っています。現代の子どもは、屋内で遊んでいるという状況が多いかと思います。外遊びをさせるのは危険だから心配、という親心も理解はできますが、かわいい子には旅をさせよ、ということでぜひ外に出して、身近な自然を五感で感じる機会を増やして欲しいと思います。もちろん、いきなり森の中に入るのは難しいので、まずは家の前のプランターから。玄関先で花を育てると、そこにはチョウやハチ、アブなどがやってきます。まずはそれを観察するのです。慣れてきたらたら今度は公園、林とステップアップ。そんなふうに楽しんで欲しいです。」

 島貫さんは近年、農薬の影響などで虫の数が激減していると実感している。生態系ピラミッドに照らせば、虫が減ることは、その上の動物たちも減っていくということにつながる。島貫さんは、ホタルが飛び交うふるさとの豊かな自然が後世まで続いていくことを願っている。

(平成28年1月取材)