音和の会
チャレンジ分野:

プロフィール

平成12年4月 音和の会設立

チャレンジのきっかけ

 音和の会は、寒河江市を拠点に活動するボランティアグループで、主に“音訳”を行っている。音訳とは、視覚に障害を持つ方のために、書籍などの内容を音声にして伝えるというもの。現在メンバーは7名で、メンバーのほとんどが平成12年1月から3月まで開かれた、寒河江市社会福祉協議会主催のボランティア養成講座の受講生だ。受講生は6回に渡り、点字、絵本の読み聞かせ、音訳を学んだ。
 「子育てが一段落し、仲間と力を合わせて何かに挑戦したいと思い、受講を決めました。社会との接点を持ちたかったというのが大きな理由です。」「教員を退職し、自分に何かできることがないか、と考えていました。文章を読むことなら自信をもってできると思い、受講を決めました。」「長い間洋裁の仕事をしていたのですが、加齢に伴って細かい作業がしづらくなったので引退しました。今後何をしようかな、と思っているときに受講生募集の情報を知りました。」「母の介護を終え、介護中にお世話になったヘルパーさんの姿に影響を受けました。自分が受けた恩を返したいとボランティアの道に進むことを決めました。」
 このように、受講したきっかけはそれぞれだったが、自分の力を役立てたい、という共通の想いを持つメンバーはすっかり打ち解け、和気あいあいと学びを深めていった。

チャレンジの道のり

 「ボランティア養成講座の修了が間近に迫ってきた頃、社会福祉協議会から、市報の音訳ボランティアをしてもらえないか、との要請がありました。当時、市報の音訳ボランティアは地元の高校生が行っていましたが、諸事情で休止することになり、その後をぜひ受け継いで欲しいということでした。学んだ音訳を早々に活かすことができると思うと、胸が躍りました。市報の発行日は月2回と決まっているので、メンバーのスケジュールも合わせやすく、無理なくできるということもあってか、音訳に興味を持ったメンバーとも話がスムーズにまとまり、音和の会を設立。すぐさま活動をスタートしました。」 

 しかし立ち上げ当初は録音機材などの備品が十分に揃っておらず、すべてにおいて一からのスタートだった。差し当たり自前のラジカセを使って、各々自宅で収録作業。後日録音データを持ち寄り、1本のテープにまとめるのだが、普段行う機会が少ないダビング作業は思いのほか難しく、慣れるまでは試行錯誤の連続だった。録音環境の違いから音量がバラバラだったり、コードの差し間違えでうまく録音されなかったり、と様々なハプニングがあったそうだが、メンバー同士、知恵を出し合いひとつずつ解決していった。
 「今でこそ、ダビング作業は2時間ほどで終了しますが、当初は朝から夕方まで1日がかりでした。家での収録も苦労が多く、家族が寝てから夜遅い時間に録音を始めたり、録音中はテレビの音などできるだけ出さないよう家族にお願いをしたり、機械音が気になるので、真冬でも暖房を止めて寒い中収録したり…。不意に鳴る電話や救急車の音にも悩まされましたね。家族の協力なしには続けられなかったと思います。」

現在の活動内容

 現在の活動拠点は、寒河江市のハートフルセンター2階のボランティア室。月2回の市報発行日に集まり、まずは誰がどのページを録音するかを割り当てる。その後は各々自宅で収録を済ませ2~3日後に再度集まり、5台の特別な録音機を使って、10名の利用者に送るテープを作成していく。
 個別に収録した音声をテープにまとめる作業は、チームワークが要(かなめ)。1人あたり2台のデッキを担当し、それぞれテープを入れる。「頭出しできた?」「ちょっと待ってね。はい、できました。」「できた?それじゃあ、いいですか?いきますよ。1.2.3ハイッ」と声をかけて、再生担当者が再生ボタンを押すのと同時に、録音担当者も録音ボタンを押す。一台ずつ録音レベルの調整も微妙に違うので、レベルの微調整も欠かさない。録音部分が終わる頃になると、「そろそろ終わりますよ。…ハイッ、ストップ!」という声を合図に一斉にストップボタンを押す。この作業を、個別に収録したテープの数だけ繰り返すので、作業現場には幾度となくカセットテープが動いたり、止まったりする際の“ガチャガチャッ”という音が響く。
 「市報はすみずみまで読み上げます。月によって異なりますが、14ページから20ページ、ときには36ページに渡るので、だいたい1人あたり2~5ページくらいの割り当てになるでしょうか。読みにくい漢字を調べたり、下読みをしてから収録しますので、5分ほどの原稿でも作業時間は1時間ほどかかります。」
 「録音する際は、はっきりと聞き取りやすい声で、スピードにも注意して読み上げるように心がけています。寒河江なまりは無理に直しません。寒河江育ちの高齢者の方が利用してくださっているので、聞き慣れた語り口調のほうが温かみがあって良いのかな、と考えています。」
 「最近は表紙がカラーになり、絵画やイベントの写真などが載っています。利用者の方にその良さをわかっていただけるよう、自分なりのコメントを考えて説明しています。少し難しいですが、利用者の方がかつて見えていた時のように、鮮やかな色を感じてもらいたいと思うと力が入ります。」

※録音を担当するメンバー(右)と再生を担当するメンバー(左)にわかれて作業
※合図に合わせて一斉にボタンを押す。

 

※市報には漢字の読みや補足など書き込みがびっしりと施されている。
※市報が吹き込まれたテープ。こうして利用者へ届けられる。

今後の目標・メッセージ

 「このボランティアをしなければ、市報のすみずみまで目を通すということはなかったかもしれません。今では寒河江市についてとても詳しくなりました。」

 「市報は役立つ情報がたくさん盛り込まれています。もっとたくさんの方に聴いていただき、寒河江市のことをもっと知って欲しいと願っています。」

 「音和の会を立ち上げてから17年が経ちますが、正月などの節目には“今年もよろしく”と利用者の方からメッセージが贈られてくることもあるんです。私たちのテープを楽しみにしてくださっているんだなぁと、嬉しくなります。」

 最近では携帯電話等でQRコードを読み込むことで、音声サービスを受けることができる広報誌も増えている。しかしまだすべての市報・広報等でそのサービスが導入されているわけではない。
 「いつの日か、寒河江市報にも便利なサービスが整備されることになるかもしれません。そのような仕組みが整えば、私たちは必要なくなるのかもしれませんね。私たちはその日がくるまで精一杯、利用を希望される方のために、活動を続けていきたいと思います。まだまだ対象になる市民の方は多くいらっしゃるのではないかと考えていますが、私たちのボランティアの存在を知っている方が少なく、また個人情報の保護の関係もあり、積極的なPRは難しい状況です。民生委員の方などからも協力をいただいて、必要としてくださる方におすすめしてもらっているところです。」
 「自宅で録音をする時間、そして1本のテープにまとめる時間。ボランティアとは“時間”だと私は感じています。私たちが時間を贈ることで、どなたかが喜んでくださるのであれば、とても嬉しいことです。また、ボランティア活動を通してすてきな仲間とも巡り合うことができ、楽しく充実した時間を共有できていることも嬉しく思います。」

(平成28年1月取材)