梅ケ枝清水・店主
横尾 千代乃さん
チャレンジ分野:

プロフィール

1936年8月、尾花沢市生まれ。東根市の横尾家に嫁ぎ一男一女をもうけ、子育てを終えた後、2003年9月にご主人との夢だった田舎料理の店「梅ケ枝清水(めがすず)」を自宅の蔵座敷を利用してオープン。笑顔がすてきな名物女将として、店と夫婦の夢を守っている。

チャレンジのきっかけ

 東根市本丸、日本一の大けやきや東の杜資料館からほど近いところに、「梅ケ枝清水」はある。梅ケ枝清水とは横尾家の庭に湧く清水の名前。横尾家は代々続く旧家で、東根城第18代城主の弟、広台が居を構えた場所でもある。梅ケ枝清水は、広台を愛した梅ケ枝姫が、広台を亡くした悲しみから身を投げた湧水という悲話から名付けられたもので、現在も観光名所として親しまれている。このような歴史ある横尾家に千代乃さんが嫁いだのは55年余り前。当時は4世代同居の賑やかな大家族だった。男性は外に働きに出て、女性は農業をしながら家を守る兼業農家の中で、一男一女を育て上げた。
 その後、ご主人が勤めていた大手生命保険会社で外交員として16年勤め、トップセールスレディにまでなった千代乃さん。日々忙しく働いていたその頃、引退後はどのような暮らしをしていこうかと考えはじめたという。千代乃さんがご主人と語り合った夢は“横尾家に伝わる梅ケ枝清水の伝説、そして地域に伝わる郷土料理を、蔵座敷や庭などを有効利用しながら伝えていくことはできないか”ということだった。
 「セールスレディをやってだときは、利益重視の日々。でも利益があっても気持ちは虚しくてね、疑問を感じったっけね。これからは利益だけ考えるんでなく、多くの人と関わりあって、笑顔で過ごす暮らしへとステージを変えだいって思ったのよ。」

チャレンジの道のり

 当時はまだ“農家レストラン”のようなスタイルは珍しかったことから、千代乃さんは近所に住む主婦仲間にも声をかけ、実現に向けて構想を練り試行錯誤を重ねた。しかしそこで思わぬことが起こった。共に夢を語り合ってきたご主人がガンに侵され、亡くなったのだ。
 千代乃さんは、ご主人を亡くした悲しみから、このままこの計画を続けるべきか、諦めるべきか、とても悩んだという。しかし、周囲の後押しもあり実現に向けて再起を誓った。
 「自分の口から“私はアンラッキーだ”なんて言ったら、だめなんだ。自分を奮い立たせるように、自分で自分を持っていくしかない。自分からピリオドを打っちゃだめなんだね。人には皆、平等にチャンスが与えられている。そのチャンスをいかにタイミングよく見つけて、活かすことが大事。チャンスは下には落ちてない。だから上を向いて歩く。人のせいにする人生じゃなくて、自分で決めた人生を歩みたいって思って、前を向くことができたのよ。」

現在の活動内容

 こうして2003年9月。横尾家の母屋、蔵座敷を利用した田舎料理の店「梅ケ枝清水(めがすず)」がオープン。現在は50代~60代のスタッフ9名で、調理や接客にあたっている。一番人気は、地元食材をふんだんに取り入れた「お姫さま膳」。地元で採れた野菜、東根の代表的な食材である麸などを使用した小鉢が、2つのお膳にずらりと並ぶ。高カロリー、高タンパクにならないよう心がけ、季節毎に献立を考え、添加物に頼らない調理、手間暇かけた手作りにこだわっている。
 
 オープン当初は、“こんな奥まった田舎に店をオープンして流行るはずがない”と周囲の人から口々に言われた、と苦笑いする千代乃さん。しかし、その心配は杞憂で、とりたてて宣伝をしたわけでもないのに、口コミで梅ケ枝清水の評判は広がり、今では大型バスもやってくるほど。リピーターも多い人気店となっている。
 「一番食べて欲しいのは、くるみおこわかなぁ。研修先で学んだ料理をアレンジしたんだけど、これを食べたいって来てくれる人も多いんだよ。あとはお麩。昆布巻きにも使ってるし、おひたしとか酢の物とか、煮物とか、汁物とか、いろんな料理に入ってっからね。お麩は万能なんだぁ。昔はこういうものを食べてたんだぁというのを、大人はもちろんだけど、子どもたちにも知ってもらいたいね。オープンして16年経つけど、いついかなるときも前進あるのみ。お客様から、もっとこうしたらいいんじゃないかって言われれば、取り入れて即改善してるんだ。商売は、お客さんに飽きられちゃだめだからね。」
お姫さま膳 2100円
名物のくるみおこわ

 

季節によってはお雛様を眺めながらいただける
お麸入りの手作り昆布巻き
笑顔でお膳を運ぶスタッフ

今後の目標・メッセージ

 千代乃さんが守っていきたいのは、しっかりと筋の通った考え方。添加物を入れず、塩分を控え、食べて健康になれるものを提供したい、その思いに特化し、ぶれないことが強み、と考えている。

 またスタッフの士気向上も重要なテーマ。まず採用の条件は“心も体も健康な人”。自分の周りに集まる人は、自分にとってプラスの影響を与える人であることが、自分や周囲の人の心と体の健康に繋がる秘訣と考えているためだ。
 また、スタッフの向上心を高めるために、年に1度の研修にも力を入れている。行き先は“自分たちが前向きになれて、充電できる場所”。特に印象的だったのは、北海道の名物おばあちゃん「紫竹おばあちゃん」を訪問したこと。農家レストランの先駆けといわれる「紫竹ガーデン」を経営する、90歳のカリスマおばあちゃんから、たくさんのアイディアやパワーをもらってきたという。
 「雪で閉ざされる冬、いわゆるオフシーズンをどうやって乗り切るのか、という考え方が目からうろこだった。オフは寂しい時期ではなくて、充電期間。オンシーズンになったらまた元気いっぱいに動けるように、オフシーズンのうちに楽しいこと、やりたいことをいっぱいして、たっぷり充電する時期なんだって教わった。そう考えれば、オフシーズンも不安になったりせずに、逆に楽しくて仕方なくなったんだ。」

 趣味はインターネットサーフィンという千代乃さん。Facebookにも登録し、多くの出逢い、交流を楽しんでいるという。店に足を運ぶリピーターがよく言うのは「ばぁちゃんからパワーもらいにきましたぁ。」なのだそう。
 “心の健康は体の健康。働き続けることが何より健康維持に繋がる。生涯現役!”を合言葉に、これからも千代乃さんとスタッフ皆さんは、心をこめた料理と笑顔で訪れる人に元気を与えていく。

紫竹ガーデン訪問
(平成29年2月取材)