理容師
池田 静子さん
チャレンジ分野:

プロフィール

1925(大正14)年、酒田市生まれ。理容師の義母の店で理容に従事し、21歳で結婚。

1951(昭和26)年、夫の泰雄さんと共に店舗を構え、通常の営業のほかに理容師を志す若者を住み込みで指導し、これまで56人が国家資格を取得した。

2015(平成27)年、生活衛生功労者知事感謝状を受ける。

チャレンジのきっかけ

 酒田市で「カットショップ不二」を営む池田静子さんが、初めて会う人にまず驚かれるのは、92歳とは思えない若さだ。肌のつや、シャンと伸びた姿勢はもちろん、ハキハキした口調とハサミを持つ手先の細やかさ。「100歳まで現役」という池田さんの言葉も、素直にうなずける。

 池田さんが理容の世界に身を置いたのは、「手に職をつけたほうがいい」という実母のすすめだった。酒田市内で理容業を営む父の店の支店で従事し、腕を磨いた。
終戦後の昭和21年に結婚し、昭和26年には2人で新店舗を築いた。以来、現在まで5回も建て替えをして現在の店舗に至ると言う。

 「夫は、新しい物好きだったの。店内に靴を脱がないで入るようにしたり、当時は『美顔』と言って、エステのようなことを、その頃から取り入れたり。自動ドアを入れたのも早すぎて、よく壊れたっけ」と、池田さんは、目を細めて笑う。

チャレンジの道のり

 「理容の国家資格を取りたい」という若者を、住み込みで働きながら勉強できるようにしたのも、夫の泰雄さんの発案だった。当時は珍しくないことだったが、口コミで「池田さんに預ければ、間違いない」と噂が広がり、次から次へと希望者が来るようになった。

 「娘さんを預かったら、自分の娘だと思うようにしてたの。資格を取るまで7年位かかるけど、その間は門限も厳しくして、食事作りも分担して、嫁ぐ時に困らないようにと。お客様との対応は、相手の気持ちを察するというサービスの基本。それはそのままお姑さんや周りの人との付き合いにも活かされるから、迷った時には相談にもよくのった。だからよく接客が抜群、と言われるの。『秘訣は』と聞かれるけど、やっぱり『心』、愛情です」と、胸に手をあてる。

 資格を取るための技術だけでなく、人としての成長や人生を見据えた指導方針は、親心そのもの。昭和46年に最愛の夫を病気で亡くした後も、遺志を受け継ぎ、続けてきた。「本当に、夫は仕事に対する姿勢から経営術まで、なんでわかるのと周りが不思議に思うほど、いろいろなことに長けている人だった。それを近くで見せてもらっていたから、私もそれに倣って続けられたんです」。  
 
 もちろん、引き受けた子の中には、手を焼いたこともあった。想いが届かない時に本気でぶつかり合うと、夜、寝室に「昼間はごめんなさい」とシュンとしてやって来る。「そろそろ来る頃だと思ってたよ」と、受け入れる。まるで本当の親子のような関わりが、強い信頼関係を作っていったと言う。厳しくてもいつもあたたかく、笑顔の絶えない池田さんだからこそ、多くの人に慕われ続けた。

現在の活動内容

 開店から60年以上が経ち、「カットショップ不二」を巣立っていった理容師は56人以上。新たにお店を構えた人は、店名に「不二」を入れると言う。「不二」を持つ店は、酒田市近郊だけでなく、秋田県など県外にも及ぶ。
 現在、住み込みでの指導はしていないが、かつて寝食を共にした若手理容師2名とともに店を営んでいる。営業などの経営面は、次男の香さんが代表取締役になり、引き継いだ。長男や実妹は同じ市内で別の店を営むなど、親族の多くが理容の世界に関わっている。

 「今も、母じゃなきゃダメって言うお客様がいるんですよ。昔ながらの、耳や鼻まで剃る顔剃りの技術は、母が一番上手なんです。自分の母親ながら、今までいろいろなことを経験しているので、何も残さないのは勿体ない。本にしたいくらいです」と、息子の香さん。
 2015(平成27)年、生活衛生功労者知事感謝状を受け、最近では新聞などのメディアからも取材を受けるようになり、長年尽くしてきたことが成熟された今、脚光を浴びている。

おしゃれな中にも昔からのサインポールが目を引く店構え
髪先を整える手さばきは、さすがベテラン
「高級なハサミは使い勝手が違う」池田さん愛用の仕事道具

今後の目標・メッセージ

 「私がいつも言い続けているのは、『感謝、感謝』。いつでもそう言うので、巣立っていった子が『耳に残っている』と笑うほどです。100歳まで現役、と言っていますが、それだけこの商売は最高なんです。女性一人だって自分の店を持てるし、何よりいろんな人との信頼関係、つながりを大切にできる。今も毎年1回、6月の第4月曜日にOG会のようなものを開いて、みんなで会うのですが、それがとっても楽しいんです。健康に気を付けながら、これからも現役でいきますよ」。

代表取締役の香さん(右から2番目)と頼もしいスタッフとともに
年1回の集まりでの米寿お祝いケーキ
「みんな集まってくれるのが本当に嬉しい」と池田さん

(平成29年11月22日取材)