たらふく工房満沢
チャレンジ分野:

プロフィール

2014年(平成24年)3月 最上町の満沢小学校が閉校
2015年(平成27年)1月 満沢地区の農家の主婦でメンバーを募り、最上町役場と、旧満沢小学校を利用した漬物加工所・農家レストランの構想について話し合う
2016年(平成28年)8月 飲食店営業許可を取得
2016年(平成28年)9月

「みつざわ未来創造館らいず」オープンに伴い「たらふく工房満沢」をプレオープン

2016年(平成28年)10月

調理スペース改装工事

2017年(平成29年)

惣菜製造業の許可を取得

2017年(平成29年)3月25日

「たらふく工房満沢」グランドオープン

チャレンジのきっかけ

 国道47号線を走り、最上町の中心部から南に向かうと、閉校になった旧満沢小学校の校舎を利用した「みつざわ未来創造館らいず」が右手に見えてくる。校舎の一部を利用して農家レストラン「たらふく工房満沢」を営むのは、満沢地区で農業を営むお母さんたち8人である。ここでは、お母さんたちが育てた地場産の野菜や、地域の食材にこだわった郷土料理を味わうことができる。

 たらふく工房ができるきっかけになったのは、現在代表をつとめる菅安子(かん やすこ)さんと、仲間数人でのお茶飲み話だった。
 「平成24年の3月に満沢小が閉校しました。みんなでお茶を飲みながら、『この学校を借りて何かをしたいね』って話していました。農閑期は暇なこともあって、漬物とかを作って売ろうかと。大した利益が上がらなくても、孫へのお小遣いくらいになればいいと思って始めたことでした」

 最上町役場に掛け合うと、産業振興課から「ぜひ取り組んでほしい」との返答がもらえた。菅さんたちが仲間を集めると、メンバーは7人になり(現在は8名)、役場がリフォーム工事を進める間、菅さんたちは研修や視察に出向き、商品の試作などを始めた。

平成24年3月に閉校した満沢小学校。
旧満沢小学校から生まれ変わった「みつざわ未来創造館らいず」
校舎を改装した農家レストラン「たらふく工房満沢」

チャレンジの道のり

 オープンまでの2年間は勉強の日々。漬物加工所を目指して始まった活動の中で、農家レストランの構想も出るようになった。
 「いろんなところを視察しているうちに、お惣菜やお弁当もしたい、どうせやるんだったらレストランもしてみよう、と盛り上がっていきました」

 立地は、大きな通りに面しているわけでもなく、ふらりと立ち寄る客はほとんど見込めない。ならばレストランだけではなくオードブルやお弁当の配達を始めれば自分たちで運んでいける、と、どんどん話は膨らんでいった。

 平成28年9月。漬物や惣菜、飲食店の許可を取得し、「みつざわ創造館らいず」オープンと同時にプレオープンした「たらふく工房満沢」には、河北新報に情報が掲載されたこともあり、各地から客が訪れたという。その後、施設の改修を経て翌年の平成29年3月にグランドオープンを迎えた。

 閉校にはなったものの、満沢小は校舎が完成したのが平成12年という新しい建物である。レストランに改装された部屋は、大きな窓から光が差し込み、とても明るい空間。小学校だった頃の椅子やテーブルがそのまま使用され、あたたかい雰囲気の中で食事を楽しむことができる。

 テーブルから調理室にいるお母さんたちが作業する姿も見ることができ、使われている食材、最上の郷土食などについて質問すると、メンバーは気さくに応じてくれる。お母さんたちがレストランを営む一番の目的は、地域の食の文化を、多くの人に伝えていくことなのである。

天井が高く、開放的な飲食スペース。

現在の活動内容

 「たらふく工房満沢」では年間通じて、レストランの運営、オードブルやお弁当の受注製造・宅配をしている。最上地方では冬期は閉店するレストランもあるが、菅さんは「もともと農閑期にみんなでできる何かがあれば、と始めたことですから」と、通年で予約を受け付けているという。

 漬物などの加工品は卸販売もしている。メンバーの野菜を買い上げて加工したものを、町内の産直市場(住まいる館マルトク内の産直もがみ屋)や、東京のアンテナショップに卸している。食品加工に関しては、食材の衛生管理に関わるHACCP(ハサップ)も取得した。

 雪深いこの地区では、冬のレストラン客は減るが、団体利用での客は定期的に入ってくるという。配達できるオードブルや弁当は、季節を問わず好評だ。「農家レストランで作る弁当だよ、というと、みんな食べたいと言ってくれる。どのメニューも、ひとつひとつ全部手作りだから。コロッケだってじゃがいも潰すところから。漬物だって下漬けから本漬けまで全部ここでしている。野菜はもちろんメンバーの自家製野菜。こんにゃくだってこんにゃく芋を育てるところから。時間と手間はかかるけど、これが私たちの売りだから」

 最近では最上管内だけではなく尾花沢市からの注文もあるという。口コミで評判は徐々に広まり、介護施設や学校などから、大口の注文が入る。完全予約制なので、注文が入ると当番制で調理にあたり、配達まで全てメンバーが行う。
 オープンしてまもなく2年目を迎える現在、各所から取材依頼が舞い込み、徐々に知名度も上がってきている。

「たらふく御膳」(1200円〜)春夏秋冬で旬の食材を使用している。
定番メニューのイワナの唐揚げ。頭から食べられる。
冬御膳の納豆汁。作業は納豆をすりつぶすところから。
地域で採れた山葡萄をジュースにして使用したゼリー。最上町の郷土料理。

今後の目標・メッセージ

 メンバーには各々の目標があるが、共通する願いは「おばあちゃん、お母さんを思い出してほっとしてもらえる料理を作ること」と菅さん。
 昔ながらの味を変えず、自分たちが暮らしてきた土地で作られた食文化を伝えていきたいとのこと。食べる人に「美味しい」と言ってもらい、愛情を感じてもらい、活動を定着させていくことが当面の目標だという。

 「まずは、友だちが集まって活動してる、っていうことに大きな意味がある。お金儲けはさておいて、というわけではないけれども、これから少ない人生の中で、家とは別の居場所があるというのが嬉しい。そうでなきゃ冬は一人孤独にコタツにあたっているだけだもの」

 課題があるとすれば、メンバーのほとんどが60〜70代だということ。勉強しながらしっかり利益を生む形を作り、10年、20年と続けていくためには、この場所にやりがいを見つける若い世代を巻き込んでいくことも必要だ、との意見もある。しかしまずは、仲間が集まることで、楽しみながら勉強して研究して、美味しいものを作る。料理に手間ひまは惜しまないことにこだわる。その思いに共感してくれる客が増え、オードブルや弁当の注文が増えた先に利益が出てくればいいと考えている。

 「とにかく案ずるよりも生むが易しで、まずやってみる方がいいよ」と、菅さんは若者にエールを送る。還暦を過ぎても、農家のお母さんたちはとてもパワフルでバイタリティに溢れている。年だからと尻込みせず、新しいことにチャレンジしていくことが、いつまでも元気でいられる秘訣なのかもしれない。

人気のオードブル。メニューのひとつひとつを下ごしらえから。
完成したオードブル
たらふく工房のメンバーたち

(平成29年11月30日取材)