山形県ハートフル訪問美容師会 ビューティ・アイ
髙橋 美枝子さん

プロフィール

1969年 美容師専門学校に入学、翌1970年より東京の美容室へ就職

1973年 山形にUターン

1978年 山形市八日町に美容室を開店

1983年 山形市小白川に移転オープン

チャレンジのきっかけ

 人の髪をきれいにしたり、整えたりすることが好きで美容師の道へ進んだ髙橋さん。専門学校を卒業後、東京で5年ほど修業を積み、山形に帰郷した。親戚のお店の手伝いを経て、山形市内に自分の店をオープンするが、仕事をしながらでも子どもとの関わりを持ちたいと考え、自宅兼店舗を移転し、単身でお店を切り盛りしてきた。

  現在、山形市内の在宅療養・介護中の高齢者6人に3ヶ月に1回の割合で訪問美容を行っている。そのきっかけは、山形県美容業生活衛生同業組合山形支部の「さわやか美容サービス」だった。

チャレンジの道のり

 「パーマ屋さんに来ることは贅沢の一つ。のんびりと話ができれば」との想いから作られたサロンは、白を基調とした清潔感のある落ちついた雰囲気。1人で切り盛りしているため、完全予約制になっている。まるでプライベートサロンのように、髪をカットしたりパーマをかけたり、ゆっくりおしゃべりをしながら過ごせるお店だ。

 長い間お店をしていると、お馴染のお客さまも年を重ねてきて、来店できなくなったりと自然と顧客の数が少なくなっていった。そういった中、在宅で療養している方のお宅を訪問する『訪問美容』をおこなったことがきっかけとなり、お客さまをお店で待っているだけでなく、こちらから出向いていく『訪問美容』をしようと思い立った。電話帳にも広告を載せ、現在、6人の高齢者の方を定期的に『訪問美容』している。

 「訪問美容のお客さまには、サロンの予約状況を見てスケジュール調整をさせていただき、無理のない時間に訪問させていただいています。マイペースでサロン営業と両立できるので、訪問美容に関する積極的な営業活動は特にしていません。終末期に身だしなみを整えるお手伝いをさせていただくことは、ご本人とご家族から感謝され、美容師としても誇りがもてる仕事です。寝たままでカットができることなど、知らない方も多いので、大変喜ばれています」

 『訪問美容』の主な施術はカットが多く、サロンでの料金にプラスして出張費がかかる。問い合わせがきた際には、ボランティアではなく、プロとして有償のサービスであることを説明しているという。
 2015年度には、山形県美容業生活衛生同業組合内の組織として「山形県家庭訪問美容師会 (現:山形県ハートフル訪問美容師会)」が発足する。県内60を超えるサロンがこの会に加盟しており、身体が弱くなって美容室に来られなくなったお客さまへ、出張するための技術などの講習も開いている。技術スタッフは保健所に訪問美容師の登録をしている者で、保険に加入するなど、『訪問美容』を安心して受けてもらうためのサポートは万全だ。

 髙橋さんは、いち早く『訪問美容』に取組んだ先駆者。山形県ハートフル訪問美容師会の中心メンバーとして講習会の企画運営にも携わっている。
 また、抗がん剤の服用に伴う脱毛や肌荒れなどに悩む患者さんを美容面で支援することを目的として、山形県美容業生活衛生同業組合では2012年7月に「薬剤性脱毛サポート協議会」が発足。これは、医師が髪が抜けてしまった患者の相談に組合に来たのがきっかけとなっている。乳腺専門医・薬剤師・ウイッグの専門技術者・がん患者の会と連携し、全国でもはじめての試み。翌2013年3月には、「薬剤性脱毛サポート美容師」の資格認定研修会が開催され、髙橋さんも研修を受講し、確認考査をクリアして「薬剤性脱毛サポート美容師」となる。

サロンに来店することができない高齢者の方には定期的に「訪問美容」を行っている

現在の活動内容

 サロンの経営をしながら定期的に訪問美容をおこなう傍らで、2ヶ月に一度の山形市立病院済生館での相談会への参加、「山形県ハートフル訪問美容師会」の役員としての活動もしている。
 先日も、パーマを短い時間でできる「時短パーマ」の講習会を企画運営し、家庭訪問美容師がよりよい施術を提供できるように努めている。

家庭訪問美容師を対象に、時短パーマの講習会なども企画している

 

 山形市立病院済生館での相談会では、ガンになった患者さんからの相談も受ける。抗がん剤治療を始める前、髪が抜ける前に、「薬剤性脱毛サポート美容師」のところに相談にきてもらうと、現在のイメージのままでウイッグのカットも可能だそう。さらに、組合が働きかけ、平成26年度から、ウイッグ購入に際して、助成が受けられるようになったのも、全国では初めてのこと。

 患者さんは抗がん剤治療により全身が痛めつけられて、まつげやまゆげまで抜ける方がいるため、おしゃれ用のカツラ(ウイッグ)とは違うものも販売されており、髙橋さんのお店でも、いつでも患者さんの相談にのることができるように、ウイッグのカタログが置いてあり、試着もできる。
 ガン治療が終わり回復すれば、再び髪の毛は生えてくるので、生えそろうまでの間やウイッグと地毛を切り替えるタイミングなどもプロのサポートがあると心強い。

今後の目標・メッセージ

 「以前、恩師のパートナーが入院することになって、ベッドの上で寝たままカットをしてあげました。その1ヶ月後ぐらいに亡くなられましたが、恩師からはとても喜んでもらえたんです。他にも訪問美容で施術後に時間に余裕があるときには、お年寄りや介護者さんとサロンと同じようにのんびりとおしゃべりします。そんなお客さまとの心の交流を持つことができ、美容師になって良かったと実感しています。
 『抗がん剤治療でウイッグが必要になるのだろうか』という不安を解消するお手伝いができるのは、薬剤性脱毛サポート美容師。サロンを訪れるのは元気な方ばかりとは限らないから知識として知っているといいと思うので、若い美容師にも講習を受けてほしいと思います」

(平成30年11月取材)