特定非営利活動法人 明日のたね 代表
伊藤 和美さん

プロフィール

2011年 庄内地域子育て応援協議会(庄内地域子育て情報サイトTOMONI運営)に就職

2013年 庄内こどもプロジェクト明日のたね を有志3人で設立

2014年 鶴岡市長沼を拠点に上記の団体を明日のたねとしてNPO法人化、同年 庄内子育て情報サイト
    「TOMONI」を譲渡され自主運営開始

2016年 地域子育て支援拠点「ともにひろば」の運営、多世代交流の子育て応援開始

2018年 やまがた公益大賞グランプリを受賞

山形県防災会議委員

山形県男女共同参画審議委員

チャレンジのきっかけ

 子どもの頃は、おとなしい子だった。しかし、興味を持ったことはとことん追求する性格で、母親からは「好きなものと嫌いなものがはっきりしていて、わかりやすい」と言われたという。

 高校を卒業し、一般企業の営業事務として勤務した伊藤和美さんは、3年後に退職して実家の家業だった理容師の資格を取得するために理容学校へ。アロマやハーブの勉強もして、一度はハーブの店をオープンした。しかし、子育てが忙しくなると思うように店を開けられず、経営が悪化したことから、オープンから4年後に閉店。起業や運営時の借金に悩まされながら、一時は、家に引きこもっていたという。
 そんな時、伊藤さんの背中を押したのは、「またどこかで働いてみたら」という夫の一言だった。

 「一度お店をオープンして〝自営業〟をしたので、『どうやって自分のモノを売ろう』という考え方をしていました。でも、夫の『雇われる働き方でもいいんだよ』という言葉で、肩の力が抜けて一歩を踏み出せた気がします」

 それから伊藤さんは、求人が出ていた庄内町の臨時職員を皮切りに、いろいろな仕事に携わった。臨時雇用ばかりだったが、働く場の数だけ吸収するものも多い。町役場から自然の家、大学、協議会。いろいろな組織に従事することで、事業や組織の運営ノウハウを自然と身につけていったのかもしれない。

チャレンジの道のり

 子育て支援や地域づくりに関わるきっかけとなったのは、東北公益文科大学内に設置された「庄内地域子育て応援協議会」に職員として働き始めたことだった。子育て支援のウェブサイト「TOMONI」を開設・運営し、庄内地域の子育て情報を発信する仕事だった。
 2011年の東日本大震災をきっかけに、「防災」も大きなテーマと感じた伊藤さんは、仲間とともに家庭での防災に関する冊子も発行した。そんな活動の中で、子育てや地域の課題をメンバーと共有することが、自ずとNPO設立への布石となっていった。

  「ある時、ずっとお世話になっていた大学の先生から『そろそろひとり立ちしたら』と言われ、本気で考え始めました。ずっと活動を共にしてきたメンバーと一緒に、じゃあNPO法人にしよう、と決めたんです」
 そして、2014年、「特定非営利活動法人 明日のたね」が誕生したのだ。

 庄内町役場内(株)イクゼに勤務しながら、「明日のたね」を運営する日々が始まった。
 まず活動をするのに必要なのは、拠点だ。
 以前通勤途中の道すがらにあった、今は使っていない元保育園を見かけるたびに、「ここを使わせもらえたら活動ができるのに」と思っていた。思い切って役場に相談してみると、思いがけず「使っていい」という返事。そこから話がトントン拍子に進んだという。

「施設の使用料や整備するための費用は、メンバーがみんなで持ち寄りました。『長沼ともにひろば』という名前で施設をオープンして、親子や地域の方々が集えるようなイベントを始めましたが、地元の人に馴染んでもらうには少し時間がかかりました。チラシを配ったり、直接近所のお店に声掛けをしたりしているうちに、徐々に近所の方々も来てくれるようになったんです」

 
「長沼ともにひろば」
 
ひろばで地域のみなさんの体操風景

現在の活動内容

 「よぐきたのー、ゆっくりしてってのー」

 小さい子が走り回れるほどの広々としたフロアに、伊藤さんの明るい声が響く。「長沼ともにひろば」は、ゆったりした時間が流れる、居心地のよい施設となった。
 ここでは現在、親子のふれあいサロンやお食事会、親向けの講座など、趣向を凝らしたイベントを定期的におこなっている。スタッフは伊藤さんのほかに、3人。「庄内子育て応援サイトTOMONI」での情報発信も、運営を引き受け、ここで事業として行っている。

 

フロアの壁には「TOMONI通信」が掲示されるお知らせコーナーのほかに、昭和なポスターなど遊び心もちらほら

 
おさがりコーナーは常時開設中!

 子どもが夏休みの時には、「長期の休みに子どもを預ける場所がない」というメンバーの声をきっかけに、自然体験活動や地域の高齢者が子どもたちに伝統文化を伝える「子ども大学(楽)」を実施し、のべ225人の子どもたちが参加した。今では近所の人たちも、干し柿づくりや縄ないの指導役を積極的に担ってくれるようになったという。

冬の自然活動「森のがっこう」風景
日帰り温泉長沼ぽっぽの湯でのお風呂託児 (商標登録申請中)風景

 

 「子育て支援が活動の始まりでしたが、子育ては親だけでするのは大変、見守る目と助けてくれる手と大きな愛がほしいと思うようになりました。おじいちゃんおばあちゃん、近所の人など、多世代との関わりが子育てには必要です。『この地域をどうしていきたいか、地域のためには何が必要か』というところまでを考えて、今は活動をしています」

 地域に根差したこれまでの活動が評価され、「2018年やまがた公益大賞」ではグランプリを受賞した。

今後の目標・メッセージ

 「公益大賞でグランプリをいただいて、周りの人たちが本当に喜んでくれました。これからも多世代交流の〝つなぎ役〟として、子育て世代を中心に地域を良くするための活動をしていきたいと思います。お母さんたちが楽しく学ぶ機会も、これから増やしていきたいですね。
 また、私自身、いろいろなことがありましたが、限界だと思ったら〝流されること〟も大事だなと感じています。ちょっと立ち止まって流されてみると、肩の力が抜けて物事がやりやすくなると思います。別な道や新しい発見が見えてくることもあるかもしれません」

 高校卒業後、就職、起業、臨時職員、NPO設立……と、求められるニーズや自分自身の興味の変化によって、柔軟に生き方を変えてきた伊藤さん。そのしなやかさは、女性の生き方のひとつの形として、多くの人のヒントとなるものだろう。

こども大学(楽)にて絵本の読み聞かせ
2018やまがた公益大賞表彰式にて審査員長武田真理子教授と副知事若松正俊とともに

(平成31年2月取材)