プロフィール
平成3年 東北薬科大学卒業後、地元の薬局に薬剤師として勤める。
退社後、平成10年にメディカルとケアを融合させた取り組みの必要性を感じ、有限会社メディカを立ち上げ代表取締役となる。
現在は社員16名で新庄市、金山町、戸沢村に薬局を展開するほか、居宅介護支援事業所、栄養ケアステーション「Hi-to!(はいっとう)」の運営も行なっている。
2016年から新庄最上薬剤師会会長に就任。
一般社団法人山形県薬剤師会常務理事、日本プライマリ・ケア連合学会山形県支部副支部長も兼務しながら地域医療に貢献している。
チャレンジのきっかけ
薬剤師として働く父の背中をみて育ったものの、いずれは薬剤師ではなく別の道に進もうと考えていた。しかし、親の薦めもあり、大学受験の時に併願校の一つとして薬科大を受けたことがきっかけで薬剤師の道へ。
卒業後はUターンし、新庄市内の薬局に勤務する。当時は今のような居宅療養管理指導といった制度のない時代だったが、薬局近くの医院で訪問診療をしていることを知る。訪問患者数は100人ほどで、一週間に数回訪問する必要のある患者もいた。その医師は看護師と共に、通院できない患者を診察して回っていた。訪問診療を終えて医院に戻り、処方箋を発行する。患者の家族がその処方箋を持って薬局を訪れる様子を目の当たりにし、患者本人に接することの大切さを感じた星さんは、薬を直接届けることを医師に提案した。
在宅療養の患者には医師や看護師だけでなく、ヘルパー、介護職、ケアマネージャーなど幅広い専門の人達が寄り添っている。その中で、薬剤師としてできることは何か。「医療と介護の懸け橋になりたい」と考えるようになった。
チャレンジの道のり
訪問に留まらず、地域全体へと視野を広げて取り組んでいるが、その大きなきっかけになったのは東日本大震災だった。
大学時代に暮らした宮城県は、言わば第二の故郷。震災後は毎週末宮城県に出向き、薬剤師の職能を生かし、災害ボランティアとして活動に加わった。避難所内に配置されている薬の管理はもちろんのこと、どんな薬を飲んでいるか、薬は切れていないか、血圧は落ち着いているかなど、被災者一人ひとりに確認して回った。
ある時、いつものように避難所に顔を出すと「星さんが来ると思っておいしいお菓子取っていたの。一緒に食べよ!」と声をかけられた。大変な状況にありながら自分を待っていてくれた人たちと“涙が出るほどおいしかった”チョコレートの味が、薬剤師としての“覚悟”を私に教えてくれた。
当時、中学3年生の長女と小学6年生の長男を祖父母に預けて週末ボランティアに行く姿を見て、「子どもたちを置いてボランティアに行くなんて、かわいそうだね」と、近所の人が長男に言ったそう。「僕はかわいそうなの?」と聞いてきた弟に、姉は「お母さんは立派なことをしているんだから、寂しがっちゃだめだよ」と言い聞かせてくれたことを後になって聞いた。
現在、大学3年生になった長男は、大学の授業で、震災時にボランティア活動に関わった人たちの話を聞く機会も多い。その際に講師から「君のお母さんにはお世話になったんだ」と言ってもらうこともあり、震災の時の母の姿を知る機会となっている。今になって、息子が「お母さんのことが誇らしい」と言ってくれることが何よりも嬉しい。
現在の活動内容
「医療(メディカル)と介護(ケア)とが一緒になってこそ、地域の人達の生活を豊かにする」という考えのもと、平成10年に有限会社メディカを立ち上げ、薬剤師としての仕事をベースに様々な活動にも力を入れている。
医薬分業が進んでいく中にあっても、薬局は具合が悪くなった時に最初に訪ねる場であり、診察後に訪れる最終の場でもある。薬局の業務は受診後に薬を渡すことだけではなく、その薬を服用した患者のその後の状態までを見守ることの重要性も感じている。いくつもの役職を兼務する中で、薬剤師の意識を高め、意欲を向上させることを目的に研修会を開いたり、薬剤師の仕事に興味を持ってもらうための啓発活動も行っている。
地域に目を向けると、新庄・最上地域は女性の胃がんの死亡率が高い。健診率が低いこと、そして何より塩分の摂りすぎに原因があると考えられる。また、塩分だけでなく、高カロリーの食事にも注視していく必要があると考え、食事の習慣の見直しやメニューの改善など、薬剤師としてできることはないかを模索する中で、行きつけのイタリアン料理店に「低糖質パスタ」を作ることを提案。管理栄養士にアドバイスをもらいながら、女性シェフならではの目線で低糖質パスタを一緒に完成させた。今後は、フレンチレストランや居酒屋などにも協力を仰ぎ、地域全体で低糖質、低カロリーのメニューを提供する店を増やしていく予定だ。
今後の目標・メッセージ
病院には緩和ケアや栄養サポートなどのニュートリションサポートチーム (NST)がある。例えば、高血圧や糖尿病で入院した場合、入院している時は服薬が不必要なまでに改善するのに、退院すると途端に薬が必要になる患者が多い。そうした現状を改善していくために、昨年、星さんたちが中心となって地域一体型のNSTを立ち上げ、今年から本格的に始動する。
また、“社会的処方箋”を地域づくりに反映させていくことも今後の目標だ。社会的な繋がりを持たない人達にとって、『最近どう?』という一声は大切な処方箋。医療と介護の繋がりだけでなく、美容室や鍼灸院、宅配業者、銀行など、地域全体で繋がっていけるような体制づくりを進めている。薬剤師の専門性を生かしながら、垣根を超えた活動を行う。そのことが地域づくりのカギになっていく。
「薬を飲む必要のない生活を送ることができるよう、また薬が必要な人には生活の質が上がるようにサポートしていかなければならないと思っています。様々なジャンルの人達が関わりを持ちながら、新庄・最上地域を良くしていけたらいいですね」