大石田町地域おこし協力隊/振付家・ダンサー・アートマネージャー
久保田 舞さん

Ⓒ木村雄治

プロフィール

幼少期からクラシックバレエを始め、埼玉県立芸術総合高校にて舞台芸術を総合的に学び、17歳のときにニューヨークでの短期研修に参加。
コンテンポラリーダンスに興味を持ち、大学ではモダンダンス部に所属。
卒業後も身体表現を中心とした作品制作・上演を国内外(※)で数多くおこない、その作品は各地で賞を受賞し、アートフェスティバルへ招へいされる。
作品制作以外にもオペラやミュージカル、MVやCMへの出演、振付サポートなども多数手掛ける。

2023年より大石田町地域おこし協力隊に着任。
大石田駅前にぎわい拠点施設「KOE  no  KURA」(こえのくら)の運営を担当。
こえのくらを拠点に、これまでの芸術分野のキャリアを生かしながら、多彩なジャンルのアーティストと共に「大石田AIR」としてさまざまなイベントの企画運営や出演など年間約20組以上、20回を超えるイベントに取り組む。
個人としても地域の保育園や学校、福祉施設などからワークショップやイベントの依頼を受けている。

2025年9月の1か月間を会期として、協力隊としての活動の集大成でもあった「おーいしだ まちなか文化まつり」をディレクターとして進行した。

 

※国内外の主な上演地
 M1 Contact Contemporary Dance Festival(シンガポール)
 NDA International Festival(韓国)
 福岡ダンスフリンジフェスティバル(福岡)
 豊岡演劇祭(兵庫)など

チャレンジのきっかけ

 4歳でクラシックバレエを始めた。当時は東京に住んでいて、スポーツクラブのバレエクラスでちょっと体を動かして楽しむ程度だったが、その後、埼玉県に引っ越し、バレエスタジオで本格的に習うようになった。踊るのが楽しく、週に3~4回、多い時には毎日のようにレッスンに通った。

 高校は、普通科がなく芸術に特化した埼玉県立芸術総合高校の舞台芸術学科に進学した。同じ舞台芸術を学ぶクラスメートはもちろん、美術科や音楽科、映像芸術科の人たちと出会い、刺激を受けた。
 17歳の夏休みに2週間ほどニューヨークに行き、ダンスの短期研修に参加した。この時、いろいろな振付家のレッスンを受け、クラシックバレエだけでなくさまざまなジャンルのダンスにふれて、コンテンポラリーダンスに興味を持つようになった。

 大きな転機が訪れたのは、大学生のときだった。身体について科学的に学ぶため、大東文化大学スポーツ・健康科学部スポーツ科学科に入学した。そこで、それまでの型にはまった頭と身体をほぐしてくれるすばらしい教授との出会いがあり、モダンダンス部に入った。自分たちで、自由な発想で創作ダンスをつくり表現する部活動で、型通りに踊るクラシックバレエとは180度違い、衝撃的な体験だった。その教授と出会ったことで、創作ダンスのおもしろさを知った。いろいろなダンスのコンペティションに出場して賞をいただいたこともあり、コンテンポラリーダンスを主とした振付家・ダンサーとしての道に進もうと決めた。

チャレンジの道のり

 大学卒業後はコンテンポラリーダンスを表現の軸として活動し、積極的に国内外のダンスフェスティバルで作品を発表した。シンガポールや韓国にも招聘され、シンガポールには約1か月滞在して、現地のアーティストと1対1で作品の制作や上演をおこなったり、ワークショップを開催するなど、活動の場が広がっていった。

 しかし、2020年になるとコロナ禍で都内や劇場での活動が難しくなった。そのため、初めて地元の川越市で地域の人たちに向けた作品を野外で上演し、「まちづくりとアート」という視点に興味を持った。

 そんな中、たまたまSNSで、大石田町に滞在して制作活動をするアーティストを探していることを知った。2021年から大石田町地域おこし協力隊として芸術振興に携わっていたダンスアーティストの大橋武司さんが立ち上げた「大石田AIR」(AIR=アーティスト・イン・レジデンス)(※)の活動だった。それまで山形県とは縁がなく、大橋さんとも接点がなかったが、以前からツアーの地方公演やアーティスト・イン・レジデンス事業に参加する機会があり、少しずつ地方での生活や活動に興味が湧いていたので「大石田AIR」に応募をしてみた。その後、大橋さんから「大石田町で地域おこし協力隊を募集しているが、どうか」と声をかけていただいた。慣れない土地や厳しい冬の生活は大丈夫かなど、不安があったが、一方で、当時27歳で、3年間の任期を終えた時には、ちょうど30歳の区切りになる。自分のキャリアアップとしても、チャレンジしてみようという思いも湧いた。次第に、新しいことに挑戦しようという気持ちが大きくなり、地域おこし協力隊に応募して、2023年4月に着任した。

※アーティスト・イン・レジデンス
 国内外からアーティストを一定期間、ある土地に招聘し、その土地に滞在しながら作品制作を行う活動を支援する事業。

現在の活動内容

 現在は、大石田町まちづくり推進課の一員として、大石田駅前にぎわい拠点施設「KOE no KURA」(こえのくら)の企画・運営を担当している。これまで培ったダンスの経験を生かしながら、地域おこし協力隊として大石田町の活性化に貢献できるよう試行錯誤しながら取り組んでいるところだ。

 「KOE no KURA」は、「大石田町とソトの、ヒト・モノ・コトが交流する場所」をコンセプトに、2017年8月にオープンした。名称は「声の蔵」を意味しており、たくさんの「声」と「声」が出会う場所になるようにという思いが込められている。大石田町の観光物産情報の発信はもちろん、町外の人と、町の文化や町に住む人とのつながりをつくる場であると同時に、地域の人たちが集まるコミュニティスペースとしての機能も果たしている。この「KOE no KURA」の周年記念イベント「くらフェス」をはじめ、コンサートやマルシェなどを企画・運営して、時には自分自身もアーティストとして出演し、にぎわいの創出を推進している。

 今年9月には、1か月間にわたって町内各所で開催された「いいねがす おーいしだまちなか文化まつり」の企画ディレクターを務めた。「大石田町の風景、歴史の重なり、いとなみ」を、さまざまなジャンルの作品や上演を通して感じることができるよう、開催場所を劇場に限らず、齋藤茂吉旧居の聴禽書屋(ちょうきんしょおく)など、文化施設や廃校になった小学校などを活用した。町並みと音楽やダンス、演劇、美術といった要素を融合したイベントで、アートの枠を超え、コミュニティの一部となって町に溶け込み、町の人たちの心を動かすきっかけになればと考えた企画だ。

大石田集めて囃し最上川演劇祭

TERA LIVE! Music & Dance セッション

※写真:「いいねがす おーいしだまちなか文化まつり」にて

 

 イベントの他には、町内の保育園や小中学校でのダンスレッスンや、運動会などで披露する演舞の振付や指導、高校の体育でのダンス授業もおこなっている。また、町内婦人部の方たちを対象にしたストレッチと身体表現、福祉施設の介護の集いで、座ってできるストレッチなど、依頼を受けてワークショップも開催し、地元の人たちとのつながりも生まれた。

 「大石田AIR」のプロジェクトとして、大石田町唯一の劇場併設施設「虹のプラザ」を拠点に、県外や国外からのアーティストを受け入れる側としても活動している。これまでシンガポール、ドイツ、アメリカ、韓国などから振付家やダンサー、映像作家、音楽家など、数々のアーティストを招聘した。また「大石田AIR」では、大石田町に一定期間滞在を希望するアーティストのサポートとして活動資金や作品制作、上演場所を提供したり、地域の方には本格的なアートを身近で鑑賞できる機会をつくってきた。

 2024年5月には北村山地区の小学校高学年から高校生を受け入れる地域のダンスクラブ「エア」を立ち上げた。当初のメンバーは中学生2人で、今年4月には大阪・関西万博で開催されたダンス・アートプログラムに参加した。8月には企画や演出・構成など、メンバー自身でゼロから取り組み、自主公演をおこなった。(現在は小学生2名・中学生4名で活動中)

 ダンスを通して表現力や創造性を養うとともに、人や社会とのかかわり方を学び、自ら考え行動できる子どもたちの育成を目指している。

大石田どきどきダンスフェスティバル3「あの銀杏の木と6時の調べ」

※写真:「いいねがす おーいしだまちなか文化まつり」にて

今後の目標・メッセージ

 ダンスの公演やイベントを開催した後、見に来てくださった方に毎回アンケートをお願いする。東京では、アンケートの回収率は半分にも満たないことが多いが、大石田では9割以上の方が答えてくれる。コンテンポラリーダンスは抽象的な表現もやや多く、わかりにくい面もあると思うが、皆さんそれぞれに受け止めて感想を返してくれるのはとてもうれしく、ありがたい。

 2026年3月で地域おこし協力隊の任期を終える。大石田町や山形県での活動をさらに深めていく拠点を構える予定だ。自分もその場所で過ごしながら、舞台芸術に限らずアーティストが滞在・制作したり、地域の人も気軽に利用できるギャラリーやゲストハウスなど、地域に開けた場にしたいと準備を進めているところだ。また、これまでの仕事のつながりも大切にしながら、関東での活動の場を広げていきたいので、大石田町と育った川越市とで「2拠点生活」をする予定だ。この3年間、地域おこし協力隊として大石田町で積み重ねてきた経験を、これからの活動に生かしていきたい。

Ⓒ木村雄治
エキシビション・現代美術「三本木歓」
エキシビション・大石田駅外階段のイラスト
「TAKA YAMAGUCHI」

※エキシビションの写真:「いいねがす おーいしだまちなか文化まつり」にて

(令和7年10月取材)