プロフィール
1984年 天童市に生まれる
2005年 「西沼田遺跡の将来を語る懇談会」のメンバーになる
2006年 (西沼田サポーターズ・ネットワーク 発足)
2007年 東北芸術工科大学 卒業
2007年 西沼田サポーターズ・ネットワークがNPO法人化
2008年 天童市西沼田遺跡公園が開園。指定管理者として施設運営に従事
チャレンジのきっかけ
生まれも育ちも天童市。奥山奈津子さんの出身中学校は、現在勤務している西沼田遺跡公園から歩いて5分という近さ。昔から馴染んできたフィールドだ。
奥山さんの歴史好きは、子どもの頃からだった。小学生の時に観た大河ドラマで歴史に興味を持ち、卑弥呼など古代の人物に「かっこいい」と魅力を感じた。
高校生になると、歴史をもっと知りたいと世界史を専攻した。世界史を選択した生徒が少なかったこともあり、教師と向き合う時間が多く、強い影響を受けたと言う。
「世界史の先生には、たくさん遺跡の情報や歴史のことを教えてもらいました。『歴史は未来を映す鏡』という言葉は、今でも忘れられません。もっと知りたくなって、発掘調査の現地説明会に参加したこともありました」。
大学でもその興味は変わらず「歴史遺産学科」に入り、さらに知識を深めながら、実際に地域と関わることも増えていった。そんな学生時代を過ごすうち、身近な場所にあった西沼田遺跡の管理や活用について検討する「西沼田遺跡の将来を語る懇談会」に加わってほしいとの声掛けが。天童市では、西沼田遺跡は大規模な復元整備をしており、復元後の活用を模索していたのだ。
チャレンジの道のり
「懇談会の構想メンバーは30人程度で、地域の人や学生などさまざまでした。ワークショップを月1回開き、西沼田遺跡公園ができたら、どんなことをしてみたいか、みんなで話し合ったんです」。
話し合いは、「やってみたい」から「できそう」にふくらみ、十数回にわたる話し合いで出たアイディアをもとにイベントを開催。メインスタッフとして活動した奥山さんも、手ごたえをつかんだイベントだった。
2008年、復元整備が終わり、正式に西沼田遺跡公園がオープンを迎えた。高床式倉庫1棟と平地式住居2棟、作業小屋1棟と木柵のほか、水田、井堰、水路など、古代の人たちの生活を肌で感じられる空間が復元され、NPO法人となった西沼田サポーターズ・ネットワークは、公園の管理運営をすることに。そして、その頃には大学を卒業して社会人になっていた奥山さんは、学芸員として公園の職員に迎えられた。
「私は本当に幸運だったと思います」と、奥山さん。
歴史への探求を続けてきた奥山さんだからこそ、引き寄せられた幸運だった。
現在の活動内容
公園の入り口に建てられた木造の「ガイダンス施設」を拠点に勤務し続け、気付けば10年が経とうとしている。
奥山さんの主な仕事は、公園や施設で開催する体験学習やイベントの企画実施、広報など。イベントでは、「勾玉づくり」や「火起こし体験」などの古代を体験するものから、「秘伝豆の味噌作り」や「石で作る耳飾り」など食やオシャレに関するものまでさまざま。今まで開催してきた体験学習は、なんと90種類にものぼる。
「オープンしてから、とにかく無我夢中でやってきました。イベントをした後は課題をフィードバックして、またイベントをする、その繰り返しです。みんなが『また来たい』と思うような遺跡公園にするために、いろいろな所で情報収集をして参考にしています」。
他地域の人から、「どうしてそんなに順調なのですか」と訊かれることがあるという。それだけ、地元住民を中心とした組織が遺跡公園の管理運営を担う例は、全国的にも少なく、西沼田のようなケースは稀なのだ。
西沼田遺跡公園には、少なくとも2つの強みがある。1つは、公園内で田畑を耕し、作物を作っている。それらを通して、当時の人々も感じたであろう季節の移ろいや自然の恵みを追体験できる。また、古代米づくりでは、米だけでなくワラも手に入る。それが、正月飾りなど体験学習の材料になっているのだ。
もう1つは、地域の人たちのみならず、協力者がたくさんいること。敷地内の手入れや茅葺屋根の住居の燻蒸(火を焚くこと)も、会員が協力しあって分担し、おこなっている。草刈りは、オープン当初は職員がしていたが、徐々に会員が加わるようになり、自然と会員の定期活動になったという。
「近所の人たちだけでなく、市外からも来てくれる会員さんがいて、月1回集まります。漬物上手な人やお話上手な人、いろんな人がいてにぎやかなんです」。
奥山さんら職員が、趣向を凝らしたイベントで会員に楽しさを提供し、会員は自ら分担してできることをこなす。そのサイクルは、“お互いにできることを続け、飽きさせない”という、支え合いの新しい形を生み出している。
今後の目標・メッセージ
もうすぐ、公園がオープンして10年目を迎える。当時は独身だった奥山さんも、今では4歳の男の子を育てる母親だ。子どもは幼稚園に通っているが、日曜日も出勤のため、夫や実家の親の協力は欠かせない。
今は、来年度迎える10周年のために何をしようかと企画中だ。オープン当初は子どもだった人も、今では大人。10年間で関わった人たちに感謝の想いを伝えたい。そして、今よりもさらに、“心に残る公園”にしたい。そんなことを考えながら、特別な企画を練っている。
「西沼田遺跡は、古墳時代の集落跡です。当時から稲作があり、機(はた)織りもしていました。今とは違う時間の流れの中で、長い年月をかけて遠い所から文化が伝わってきているのです。この公園は景色も良く、そんな古代の時の流れを感じながら、くつろげる空間です。もちろん、普通の公園のように遊ぶこともできます。フラッと気軽に、遊びに来てください」。